「魔術師と小娘――②」
「……なるほど。緊張感も無ければ空気も読めない、自分の立場も解らない。さすが半人前といったところですわね。『アルテアスの出涸らし』。界隈では有名ですもの」
「それが『クサい生き残ったごっこ』ってバカにしたことと何の関係があるんですかって聞いてるんです――」
「まだ友人知人の安否が分からない者は大勢いますのよ? 何より、王女や王が助からなければ滅亡という状況にも依然変わりありません。何も終わってないうちに、我が身とその周辺の無事を確認しただけで何を泣き崩れているんですの?」
「そ――そんなのっ! 友達が無事だったら喜ぶのは当たり前――」
「あなたが戦う必要のない一般人ならこんなことは言いませんわ? でも違う、あなたはたった今兵士長のお墨付きで、戦場における価値を見いだされ私に治療された戦士なのですよ? それが目を覚ました途端に状況確認かと思えば友人の安否の確認だなんて。まるで戦いが終わった後のような風情ではありませんか。自分一人だけ」
「!……」
「戦士としての自覚もなければ力も足りない、他人の気持ちを慮る器も無い。挙句目につく者を考えなしに助け助けて気絶して、他人に治療を受けてここにいる――あなた、本当は人や国を助けることなんてどうでもいいのではなくて?」
「それだけは違うッ!!!」
「マリスタっ」
とびかかっていきそうなマリスタをサイファスが羽交い絞めにする。
「そしてまた感情的。目も当てられない粗悪品ですわね。兵士としては」
「なんでっ……なんであんたにそんなこと言われなきゃならないんだッ! なんでそこまで――」
「自覚無き兵士は味方を殺すんですのよッ!」
「――っ!??」
一瞬輝いたように見える程見開かれたイミアの目がマリスタを委縮させる。
「士気を下げる。粗悪品をカバーする味方の負担が増える。全ての負債は死に直結するのですわ戦場では。故に軍律も厳しくあるのです。大貴族の嫡子が何です、我がリシディアの一兵卒にも劣りますわね! だから治療する価値などあるのかと尋ねたのですわ、まったく鬱陶しいッ!」
〝去れここを。やめちまえ兵隊なんざ――――二度と戦場に戻ってくるな〟
「…………くっ。くぅうぅっ」
「なんですのその呻きは、呻きたいのはこっちですわ! あなたのすべての動きは、戦場で戦う覚悟を持たぬ者のそれでしかありませんもの。肩書きに踊らされて右往左往するガキのお守りなんて真っ平なのですが? それが何故かプレジアに肩入れする大貴族の嫡子ともなればなおのこと!」
「っっ、あんたまだそんな偏見――」
「私に意見するな雑兵以下の穀潰しがッ!!」
一喝が魔波を帯びる。
ペトラに言われた言葉も思い起こされ、マリスタは立ち尽くすしかなかった。
「プレジアの襲撃者を潰したという話も、後先考えないただの玉砕特攻がたまたまうまくいっただけなのではなくて?――――まあ、そうして華々しく散った方が、大貴族子々孫々の面に泥を塗ることにならなくて、良かったのかもしれませんけれど。そこまで判断出来ていたのなら認識を改めさせていただきますわ」
「……………………っっっっっ、」
「ダメだマリスタ。抑えるんだ――ダメだと言ってるだろっ!」




