「魔術師と小娘――①」
「兵士長」
「治療をお願いします、魔術師長殿。この者にはまだ価値がある」
「価値?」
「つい先日、プレジアが何者かの襲撃にあった話をしたと思います。その際、敵の捕縛作戦の草案を作ったのがこのマリスタ・アルテアスなのです」
「そんなことで――」
「加え、敵の頭目――ヘヴンゼル騎士団の騎士長にも劣らぬ力を持っていたアヤメ・アリスティナにも健闘し、敗れはしたもののその剣士の片腕を潰す働きを見せました。魔弾の砲手の一撃で」
「――魔弾の砲手で?」
「この潜在能力には賭けてみるだけの価値があります。加え、名が示す通りこの者はアルテアス家の嫡子です。今後国の立て直しを図る意味でも、今大貴族の一角に恩を売っておくことは……無価値ではないかと」
慇懃無礼、どこか足元をみるような目で王家の臣下を見つめるガイツ。
察してか否か、イミアは渋々といった様子でサイファスからマリスタをひったくり、床に寝かせて治療を開始した。
「……ありがとう、兵士長」
「合理的に考えた結果です、例を言われる筋では。――聞こえるか、ボルテール兵士長」
『ああ』
「少し打ち合わせたいことがある。時間をくれ」
『少し待て。こちらから連絡する』
大事な連絡なのか、小さく一礼してサイファスの元を離れるガイツ。
サイファスが額の真ん中で二つに分けた金髪をかき上げ、改めて一息をついたとき――ガバリ、とマリスタは飛び起きた。
「うわっ!?……ちょっと、まだ傷口塞ぐ程度しかしてませんわよ!?」
「・・・・・・・・・。・・・・・・・」
「ま、マリスタ……大丈夫なのか?」
「・・サイファ、ス――みんなは。みんなはっ!?!?」
「わっ」
すがるように、マリスタがサイファスのローブをつかむ。
「落ち着けマリスタ、」
「ココウェルは、リリスちゃんは!? ケイはどこにいったの!!? みんなどこにいるのっ!!?」
「落ち着けって――」
爆破。
魔弾の砲手を背に受け、マリスタが吹っ飛んだ。
『!?』
「うっ……あぁッ!?」
「マリスタ!?」
「目が覚めまして? 小娘」
ろくに受け身も取れず地に突っ込んだマリスタ。
口の中に血の味を感じながら、マリスタは――自分を撃った紺の魔術師をギッとにらみ付けた。
「っ、あなたは……!」
「何ですの、そのキレた野犬のような眼は。味方に向けるものじゃありませんわ」
「い、今の魔弾の砲手だって味方に向けないでしょ!?」
「発狂してたのはあなたでしょう? 自分の精神的な弱さを私に責任転嫁しないでくださる?――そういえば学園正門で、敵の首を落とした時に吐いていたのもあなたでしたわね。戦場においてその体たらく、恥を知れと助言して差し上げますわ」
「ッッ――」
「マリスタ、今は抑え――」
「行方不明だそうですわよ。王女も、それを守っていた学生達も」
「――――――――――――――・・は?」




