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「選別」



 紺色こんいろの髪が垂れ下がり、とんがり帽子ぼうしを脱いだイミアの顔を隠している。

 彼女は手元で――タレスと呼ばれた国軍兵士の、血だらけの胸元で発していた緑色の光をゆっくりと、消滅させた。



「死にたく、な……」

「タレスッ――タレェスッッ!!!!」



 部下から伸ばされた手を砕かんばかりに握っていた騎士、アティラス・キースが叫ぶ。



 叫び空しく力をうしなった兵士の手を、彼は取り落とすようにして放し、遺体にうずくまった。



 治安部隊の生き残りは、これでアティラス一人となった。



「……何者だ」

『!?』



 ガイツの声に、その場の全員が色めき立つ。

 彼がゆっくりと、しかし鋭い目を向けた瓦礫がれきの山の向こう側――その山のかさばりから生まれた小さな隙間すきまから、一匹の白い蛇が現れた。



 その造形(・・)に、ガイツは見覚えがあった。



「……全隊に通達。更なる生存者を――」

「……よかった。君達だったか」

「――二名、確認した」



 白い蛇が、小さな煙と共に消え。



 瓦礫とは正反対の方角にある岩陰から、サイファス・エルジオはマリスタ・アルテアスを抱きかかえて現れた。



「う……さいふぁす、だれ……?」

「――負傷か」

「障壁も展開しないまま不特定多数を手当たり次第にかばって、衝撃が英雄の鎧(ヘロス・ラスタング)抜けた(・・・)みたいだ。意識はあるが朦朧としている、治癒術士ちゆじゅつしはいるのか?」

「……魔術師長殿。マリスタ・アルテアスの治療を――」

「命に別状はないのでしょう? 戦火の届かないところに放置するのが最善ですわ」

「け、ケガをしてるんだよ! お願いだ魔術師長、彼女は――」

雑兵ぞうひょう風情ふぜい一人治療し動けるようになった程度で、一体この戦局をどう覆せるというんですの?」

「――本気なのか。けが人を目の前にして、治療する技術を持ちながらそれを――拒否すると?」



 路傍ろぼうの石でも見るような目で即答してくるイミアに、サイファスの前髪が一糸、魔波まはに呼応し持ち上がる。

 イミアはそのアメジストの目をより冷たく細くしてサイファスを見た。



「身の程もわきまえず、もはや戦闘に役立つかもわか(・・・・・・・・・・)らない(・・・)不特定多数を手当たり次第に助けるような愚か者を助けてその後どうなるというのですか? まだ戦力として機能する者達の足を引っ張るだけなのが想像できませんか?」

「そういう話をしてるんじゃない、俺は――」

「そういう話をしてるんですが、わたくしは。私の魔力にも限りがありましてよ? これからどうなるにせよ、道に転がる誰一人選別せず手当たり次第に助けろと? 貴方あなた、思考がプレジアの学生風情と同じでしてよ?」

「……あなたはなんて……!」

「もういい。エルジオ先生」



 割って入ったのはガイツだった。


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