「呪い殺す、ただすべてを。」
突然だった。
突然、バンターは目を狂ったように見開き、頭を抱えて地に膝を折ったのだ。
声にならない、しゃがれた呻き声――否、悲鳴をあげ、血管の波打つ頭を押さえて苦悶している。
そんな怖気さえ感じる苦しみ方に、トルトは見覚えがあった。
(……アマセの奴と、同じ――)
情報がつながる。
トルトは、自分の記憶を刺激しているものが何であるかを確信した。
「――お前さん、まさか……『痛みの呪い』を受けてんのか?」
「―――――― リ シ デ ィ ア ッ ッ ッ 」
「あ?」
「リシディア……リシディア……リシディアァァァァ……!!!」
バンターが血走った顔を上げる。
怒りに染まり焦点を失ったその目は、しかしトルトなど捉えていない。
その目に映るのは、宿るのは、流れるのは――――
「……ココウェル・ミファ・リシディア」
「ッッッッ――――――!!!!!????」
「っ!? こ、ココウェル!? ちょっとどうしたの、」
「!? 止まらないで、アルテアスさん!」
身に覚えのない、殺意が。
殺意がただただ、少女を次々に刺し貫いていく。
「ココウェル・ミファ・リシディアァァァ、」
「はっ、はっ、はっ……!? ぁ、はっ、ァっ、」
浴びたことも無い瞋恚が。
想像も付かない怨嗟が。
それらさえ凌駕する殺意が――
ココウェル・
ミファ・
リシディアァァァ――――――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!!!!
呪いとなって、少女を殺す。
「もう嫌ああぁぁァッッッッ!!!! 誰か助けてぇッッッッ!!!!!!!」
「ココウェ――」
「ッ――――!!?」
「おい、冗談じゃ――!!!?」
「アアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ――――――――!!!!!!」
叫喚と、共に。
バンターの中で、何かが渦巻き。
それが彼の足元に、渦を巻いて現界し。
発された衝撃波は、王都全体を引き裂いた。
遠景からでもはっきりと判るほどの砂煙が、王都全域に立ち込める。
天空からでもはっきり解るほどの慟哭が、空を満たす。
学園区はもはや、その原型が解らぬほどに崩壊し。
隣接する居住区や中央広場にさえ、その崩壊は及び。
トルトも。
圭も。
王女さえも、もう誰もどこにいるのか見当もつかぬほど。
その場で見れば、もうそこがリシディアの首都であることが理解できないほどに。
バンター・マッシュハイルの「呪い」は――否、「呪い」のバンター・マッシュハイルは、目につく悉くを、滅ぼした。
後にはただ、風が哭き。
誰しもが目を背け。
世界は、静かに暗転する。




