「千里行の戦い」
指で頭を叩き。
トルト・ザードチップが、攻勢に出る。
「……!」
風を唸らせて迫った蹴りをバンターが受け止める。
ローブとズボンのせいで普段は解りにくい、俊足の獣のようなしなやかさを持つ足が二撃、三撃と打ち込まれていく。
バンターはそのすべてを受け止め――――考えるのを止めた。
「!――うおやっべ、」
トルトの蹴りがバンターの脇腹に誘い込まれる。
わざと受けたバンターはその足をそのまま上腕で挟み、前腕を足の下にくぐらせて力を込め、
(折られるっ――!)
腕を地に着いて体を捻ったトルトによる股間の蹴り潰しで足折りを阻止された。
「おっ、さすがに怯んだか、金的は! あぶねえあぶねえ――」
眼前に拳。
「うおおっ――!!」
体を地に倒しながら、拳を天に蹴り弾く。
背が地に着く前に瞬転で飛んだトルトに、バンターは平然と追いついて――
――来ていない。
(あ?――じゃねえ、やべえっ!)
加速。
瞬間、世界を線に変え――――トルトはバンターに追いついた。
進路に回り込み、繰り出された拳に蹴りでカウンターを合わせ、その動きを止める。
(そりゃそうか――俺なんかよりお姫さんの方が優先だわな!)
一瞬の隙にバンターは戦闘を離脱し――先程ココウェル達が逃げた方向へ猛然と駆けていたのだ。
超速に二人の姿が掻き消え、ぶつかり合う蹴りと拳の衝撃だけが砂煙を吹き飛ばし、空気を円形に彩る。
(蹴りに拳で平然と拮抗してきやがる――力を比べた腕はまだ痺れが残ってやがる。力の差は歴然ってか)
足止めが精一杯だ、とトルトは脳裏に刻み付ける。
記憶の疼きに焦らされて、目的を見失うことだけはあってはならない。
(いくら先の俺で何とかなりそうだからといって、今の俺がこいつより弱いことに変わりはねえ。握力で拮抗できたのも偶然記憶がウズいたおかげみたいなトコあるしな……しかしこいつ、)
戦いの最中、突如方向を転換し追跡を始めようとするバンター。
彼に瞬転空で追いすがり、なんとか追跡を阻止するトルト。
応じ、その網目さえ潜ろうと乱れ飛ぶバンター。
互いに絶好の隙をうかがい、好機と見て迫ったトルトの蹴りをバンターは――――助走さえない蹴りであっさり圧し負かした。
「ッてぇ……ッ!!」
蹴り合いに負け一人空に乱回転しながら吹き飛んだトルトを無視し、バンターが掻き消える。
「――腕の感覚戻ったッ!」
「!」
トルトが腕を真横の壁に突き当て。
岩蛇の群れが、バンターを襲う。




