「守れ、」
地に落ちた、首が可動域を超えて曲がるギリートの身体。
落下した体によって起こされた砂埃は風に流れ、今ようやく俺の下へ届く。
座り込む俺の眼前には、俺と目を合わせる褐色の肌を持つ大男。
否。男は既に、いやもしかすると最初から俺など見ていなかった。
男の視線が向く先はただ一つ――――
「ココウェル・ミファ・リシディア」
――戦争も政治も知らない、哀れな哀れな籠の鳥。
「あ――――・・あ、……・、、あ、あ、あああああっ、」
――空気に敷き詰められている痛みを感じない針が、余すところなく体を押さえこんでいるような感覚。
死
怖気が止まらない体と早鐘を打ち続ける心臓は一分一秒でも早くこの男の前から逃げるべきだと告げているのに、地に着いた尻や手から杭が伸びているかのように動けない。
呼吸したくて堪らない肺は拍動し続けているのに、鎖に縛られているかのように上手くいかない。
それが他でもない「気」により発される圧であるのだと気付いたときには、
「――――っっっっココウェルっ、」
『!!?』
マリスタ・アルテアスは、褐色に向けて一人飛び出していた。
「マ――――――ッッ!!!」
「アルテアスさんッ!!」
ゆっくりと流れる時間。
しかしわずか数メートルの距離はみるみる縮まり、マリスタは所有属性武器を構えて大男の懐へ、
「生きて――――大好きな人がたくさんいるこの国を生かしてッッ!!」
大男は、ココウェルの前に移動していた。
『ッ!!?』
――考えてみれば当然だった。
相手にする必要が無いマリスタなど、この男は最初から気にもしていない。
だからリリスティアは正しくて、
「うそ――リリスちゃっ、」
リリスティアは――――リリスティアは何故か、大男の動きに対応した速さで、ココウェルの前に手を広げて立ちはだかっていた。
〝にいちゃん〟
「――――――――リ、」
〝兄さん〟
大男が渾身の力を握り込むように、拳を構える。
ココウェルの頭を粉々に吹き飛ばすべく、ついでに眼前の肉壁の頭をもっていこうとしている。
あの腕の長さなら届く。
届いてしまう。
また、死んでしまう。
「……………………め、い」
だめだ。
堪るものか。
殺されてなるものか。
「愛依ィィィィィィイイイイッッッッッ!!!!!!!!」
足が砕けた、音がした。
砕けた足で、踏ん張って。
迫る拳に、踏み出して。
虹色に歪む、拳を構え。
残る命の、全てを込めて。
拳と拳が、激突した。
『―――――――――――――― 、』
――――――その時、だった。




