「光と影」
その無我夢中な背中は、決して見られたものではなかったが――これが本来のこいつなのだ。
王女然とした皆の前での姿こそ、虚像なのである。
「ココウェル!」
「ココウェルッ!!」
「王女殿下ッ!」
「ひぃッ!!?」
俺を追い越したマリスタがあっさり追いつき、ココウェルの腕を取って前に回り込む。
ココウェルはそれを追っ手と勘違いしたようで酷く怯えた声を発しマリスタの手を振り解こうとしたが――次の瞬間には彼女をしっかりと認識し、確たる意思で手を振り解いた。
「!? ココウェル、」
「触んなザコ共ッ!! 近寄るな!」
「ち――近寄るなって、私達はあんたを守るために」
「ハ!!! テメーらハンパな奴らに下手に守られてた方がよっぽど見つかっちまうだろうが!! あいつは魔波を知覚できねェんだろ、だったら一人で逃げた方が見つかりにくいんだよ!」
「で、でも見つかった時に」
「見つかった時にナンだよ!? テメェらがわたしを守れるってのか? 殺されねェ保障があるってのかよ!!」
「そ、そんなのは誰と一緒でも」
「ゥだろうが見つかった時点で終わりなんだよあんなバケモン!! 意味ねェこと利いてんじゃねえクソザコがッ!!」
「落ち着きなさいったらこのバカッ! そのクソザコにもてんで敵わないくせして、あんたどうやってお城までたどり着くつもりなのよっ!? 奴らの仲間は王都中にウジャウジャしてんのよっ!?」
「だから見つからねェうちにトンズラここうとしてんだろうがッッ!!!」
「と――――は??」
マリスタが目を瞬かせて発した困惑の声。
その時、俺はやっと周りを見て――ココウェルがどこに逃げようとしているかを理解した。
「と。トンズラってどういうこと? お城に向かうためにあんたは、」
「アーアーアーアー間違いだよ間違い間違いマチガイだった!! わたしみたいなのがカッコつけて国を救おうなんてのが間違いだったんだよ!! 何なんだよアイツ聞いてねえよ強すぎんだろどうなってんだ同じ人間かなんなんだ王都のこのザマはよ!!?」
「こ。ココウェル、」
「どうでもいいどうでもいい王都なんか家族なんか国なんかもうどうでもいいッッ!!! 死にたくないッッッッ!!! わたしは死にたくないのッッ、とにかく生きるためにはあのイカれた強さのクソから離れなくちゃいけないのッッ!!!」
「ココウェル落ち着け」
「しっかりしなさいよバカココっ!!」
「触るなァァァッ!!」
最早狂乱状態のココウェルが、肩を揺さぶろうとしたマリスタの両腕を鋭く弾く。
「わたしが――わたしが生きてれば国はまた盛り返せるっっ!!」
「! コ――」
「…………」
「そうよやっとわかったのよ、わたしは死んじゃだめ死んじゃだめ死んじゃだめッ!! わたしが生きてれば他の何がどうなっても構わないっっっ!!」
「ココウェルッ!!!」
マリスタが、振り解くのを許さない力でココウェルの胸倉を掴み上げる。




