「つなげ。」
そして空気が、
蒼い炎に、焼け歪む。
「……!」
柄の先にある透明色の魔石を光らせる折れたイグネアの刃から、そして刃に彫り込まれた金の紋様から出力される蒼炎。
空にて侍る無数の蒼き槍。
その葬列の中心で――自らを蒼炎と化し笑う、ギリート・イグニトリオ。
大貴族イグニトリオ家が誇る魔術の粋が、今ここに集結していた。
呼吸だけで喉が焼けそうなほどの熱の中、褐色は目を細めてイグネアを見る。
「お察しの通りだよ」
「!」
「隠したって意味ないからね。ご覧の通り、僕は精霊化していながら剣を握ってる。物理的に世界へ干渉しているんだから……『遠当て』以外でも、攻撃が全く当たらないワケじゃない。当てられればの話だけど」
蒼き必殺の葬列が、褐色を捉える。
「およそ世界の物質全てを融解させうる高熱だ。回避しようがお構いなしにお前の肉体に影響を与える――――当たろうものなら猶更だ。さあ始めよう、」
両雄が、地を蹴る。
「お前が焼け死ぬか、僕がバラバラになるかの勝負をね――――!!」
◆ ◆
魔波が。
否、熱波が――鼻腔を焼いた。
「ッ……イグニトリオ君……!」
マリスタの声。
思わず鼻から息を追い出す。
ギリートからは随分離れた筈なのに、露出した肌はまるで肌は炙られているかのような焼け付きを覚えている。
魔波の膨れ上がり方も尋常じゃない。
これが人間ひとりの発する魔波なのか――一体ナイセストやアヤメの何倍だ?
もしかするとギリートの奴――
「命を燃やしてる」
ぽつりと呟かれたリリスティアの言葉が嫌でも耳に残る。
恐らくそうなのだろうと察しは付く。
あれだけ五月蠅かったかなめの御声が沈黙している。
恐らく戦死した――あの大男に殺されたアルクスは俺が見た男だけではない筈だ。
イフィも、ゼインも、フェイリーも。
ギリートもきっと感じている――――最期を覚悟して戦っている。
だから、より一層足に力が籠った。
ギリートが持ち堪えてくれている。
ココウェルを逃がそうと俺に血路を開いてくれている。
応えねば。
ギリートの思いを無駄にはできない――――!
「――――見つけた」
「っ!」
「えっ?! み、見つけたって――ココウェルを!? どこどこっ」
「あの煙の向こうだ。ココウェルの魔波を感知した」
「えぇ!? ぜ、全然わかんないけど私ッ」
「私も感じない……確かなの? アマセ君」
答える間もなく砂煙を突破する。
遠くない距離を、第二王女はひたすらに走っていた。




