「頂上の戦い」
半年前。
実技試験、ヴィエルナ・キース対ナイセスト・ティアルバーの一戦。
暗弾の砲手によって魔力回路を不活性化され、身体強化魔法英雄の鎧を使えなくなったヴィエルナが、身体強化を使ったナイセストのスピードに追い付き、あまつさえ勝負を判定にまでもつれ込ませかけた力。
先天的に呪文の詠唱を行えなかった少女が、死に物狂いで身に付けた戦う力――――
「世界が放出する魔素を、魔力回路を通し精神と共に練り上げ魔力として用いるのが僕達だ」
褐色が圧倒的な速度で拳に練気を乗せ、飛ばす。
ギリートはそれら「遠当て」を次々と躱しながら――それが直線的な軌道しか描けないのだ、と分析した。
「それに対し、肉体が作り出すエネルギーである気を精神で練り上げ練気として用いるのが君達。精神の果たす役割という点で、魔力と練気は力の成り立ちが微妙に違う。でもそれが――」
縮地。
練気により成される瞬転と同じ原理での高速移動を感知し、至近距離からの遠当てを避け続ける。
「でもその違いが、いわゆる世界線的に大きな違いを生んで……魔力と練気は互いに不干渉、いや無干渉とでも言うべき存在だ。だから練気の一撃は――精霊の壁でも防げない。でも、」
遠当てが命中し、火の精霊と化していたギリートの身体が爆散した。
褐色にはそう見えた。
「!」
圧倒的な熱を感じ、空を振り仰ぐ褐色。
そこにはひん曲がった魔装剣イグネアを拾い上げ、もう片方の手で――――熱源の正体である、腕ほどもある青い光を放つ槍を錬成したギリートの姿があった。
「防げないは――お互い様だよ!!」
青白く発光した槍が、褐色が今しがた存在した地面を貫く。
途端――――地は溶解し凹み始めた。
「!」
「どれだけ練気で身体能力を強化していても、僕にとってお前は炎に焼かれれば熱傷を伴って死に至るただのイキモノでしかない。僕はお前を焼き殺せる。お前に――――勝てる可能性がある!」
蒼き槍が。
むせ返るような熱波が。
ギリートの背後に、無数に装填され――放たれる。
「…………チ――――ッ!」
褐色が、ただ回避の為だけに後退する。
「逃がさない」
蒼い槍の群れは、
「羽ばたけ」
その後を追尾する。
「――!!」
空を蹴り飛び逃げ回る褐色。
その小回りを追い切れず、いくつかの槍が瓦礫や建物の残骸に激突、全てを溶解させ崩落させる。
(……といって、こっちが不利なのは揺らがない。アルクスでさえあのザマだった。僕も恐らく、あいつの攻撃を一撃でも食らえば……死ぬだろうな)
十分な距離を取った褐色が、遠当ての乱打で蒼い槍を相殺していく。
対応されるのも時間の問題だった。
(それにこのままじゃ、先にスタミナ切れになるのも僕……だったら!)
「火鳥滑翔」
新たな槍を褐色へ飛ばしながら、ギリートは――――イグネアの刃を、折れた箇所から真っ二つにへし折った。




