「褐色の男、その力の正体」
炎の剣身を褐色が掴む。
が――
「残念」
「!」
ただの人間に火をつかむことは、できない。
褐色の手を焼きながら炎と消える剣。
次の瞬間には新たな炎剣がギリートの手に在り――
(だったら、狙うべきは――――筋肉が存在しない眼球!)
紙一重で回避。
眼球に映る残火に――――褐色は初めて、苦戦の息を漏らした。
(そこは鍛えられないよね、やっぱり――!)
力に任せた一筋の蹴りが、ギリートの身体を袈裟に断つ。
しかし彼はお構いなしに所有属性武器を振り上げ――――褐色の背後に火弾の砲手を展開した。
褐色は気付くこともなく――眼前の剣を受け止める。
「!」
「っ――!」
爆炎。
背に着弾した火弾にのけ反る褐色の手に握られた炎剣を、ギリートは――目一杯の摩擦を伴わせて引き抜く。
褐色の手から血が散り――その霞が落ち切ったとき、両者は再び開戦時の距離に戻っていた。
「ッ……」
「――?」
腕に一筋の血を流す褐色が何かに顔をしかめ、瓦礫に宿る火に斬られた手の平を当てる。
十分に傷を焼き塞ぎ、拳を力強く握りしめた。
(あの程度の傷を……? いやそれよりも。あいつは今――――魔弾の砲手に気付いていなかった。魔素が散ってるとはいえ、この距離だ。感知できないはずはない。つまり……)
「……へえ。ホントに目視しかできないんだね」
「…………」
「はは、攻撃がすり抜けるんじゃさすがに言葉を聞くしかないって感じ?――もう確定だ。あんたは魔法に関しては素人。そうなんだろ?」
「…………」
「技も魔法じゃない、魔波も感知できない。じゃあ次は当然、あんたがどんなカラクリで身体能力を強化してるのかってことだよね。分かんないなぁ……」
「…………――」
「……とでも言うと思った?」
「――」
「ッ!」
褐色が拳を構え。
空圧を、放った。
「チ――――!!」
轟音。吹き荒れる砂。
体を炎のように揺らめかせながら、ギリートはかつて鐘楼であった瓦礫に着地した。
「正解だよ。精霊化していても、その『遠距離パンチ』は当たる、みんなも気を付けてね。いや……専門用語では『遠当て』っていうんだっけ?」
「!」
斜め上空からの空圧――――否、「遠当て」により鐘楼が陥没しひび割れ、轟音と共に崩落していく。
炎となって立ち消えたギリートが褐色の正面に現れた。
「自分と同じだと思った? お前が僕らの力を知らないように、僕らもお前の力を知らないと? 残念、知ってるんだなコレが。いや正確には、見たから調べたんだけどね」
眼前に拳。
「ッ!?」
を、褐色は放ったはずだった。
「べー。こっちでした……っつってね、ちゃんと体は反応してたね。恐ろしい反射神経と動体視力してるよね、こりゃ瞬転使っても簡単に見切られそうだ……まさか避けられると思わなかったんでしょ? アルクス達は避けられなかったんだもんね」
「…………」
「お前の力は――――〝練気〟。東洋の神秘『気』の闘法だ。それを体内で練って戦ってるんだろ? 東国タオから伝わるマイナー武道だ。故に知らないものにとっては最大の脅威になりうる」
「……魔法ではない、」
「――気の、闘法だと……?」
リセルに、圭に、情報が伝わる。
未確認の褐色の大男の戦いが、勇者たちの手によって次々とつまびらかにされていく。
「……練気。そっか」
「ヴィエルナ。まさかこの褐色ってのが使ってるのは、お前と――」
〝…………練りきった。ちょっとだけど〟
「ウチにもいるんだよ。ちょっと練気の闘法を扱える格闘美少女がね」




