「ギリートVS褐色の男」
「ぎ――ギリート、」
「『強い奴と戦いたい』とかいう次元の相手じゃなかったって、大方そんなこと考えてるんだろ。でもそれだけ? 君がここにいる理由は」
「何を――」
「いいや違うね、絶対に。だって君は――――あんなに怒ってたんだから。アヤメ・アリスティナにプレジアがメチャクチャにされかけただけでね」
「――――、」
「君の『復讐』に何の関係もないことでさえ、君はあれだけ怒ってた。なんだかんだ言って情が湧いてるのさ。だからこそ君がこの戦いに見いだせる意味はまだまだたくさんあるはずだ。そうだろ?」
「――ギリート、」
「一つ失くしたくらいで絶望してる暇ないよ。今果たしたい願いに――――今守りたいものに全力を尽くすんだ、アマセケイッッ!!」
「!!」
「てなわけでさっさと王女探すッ! こいつは――――僕が食い止めるからさッ!」
――ギリートが、褐色へ飛ぶ。
最後まで見届けず、俺はココウェルの逃げていった方角へ視線を定めた。
「――ガイツ、ペトラ。応答してくれ」
『作戦続行。各員、予定通りのルートから目的地へ進め』
――生きていてくれたか。
そしてそれが頭としての判断なんだな。ならばいい。
何人か異を唱えているようだが、恐らく議論すべきタイミングではない。
尋ねようとしていた内容が決定事項となって返ってきた。
なら後は――役目を果たすだけだ。
「悪かった。リリスティア」
「――一分一秒も惜しいよ、行こう! アルテアスさんは――」
「……、 。大丈夫。大丈夫……!」
◆ ◆
褐色の拳がギリートを真っ二つにした。
故に、褐色は驚いた。
それでもなお口を開くギリート・イグニトリオに。
「!」
「へえ。どうも魔法の知識にはそれほど詳しいワケじゃなさそうだね」
放物線を描くように飛びながら、千切れた胴を曲げて褐色を見るギリート。
やがて炎となって四散した彼の下半身は元通りギリートの上半身に接続し、何事も無かったかのように元通りの身体を形作った。
「神火の群舞」
中級魔法とは思えない圧と規模の火炎――――から超速で逃れた褐色がギリートの顔面を打ち抜く。
ギリートの顔面は中央に大きな穴があいたものの――彼の目は鋭く褐色を捉える。
「!」
火炎一閃。
ギリートの左手に突如錬成された炎の剣は、確実な手応えを伴って褐色の腹部を薙いだ。
息もつかせず、残火を共い――火精化したギリートが褐色へ迫る。
「――」
火炎の剣と無手の応酬。
瓦礫さえ切り裂き炎上させるギリートの剣筋をしかし、褐色は四肢で躊躇いなく受け止めていく。
裂傷こそ与えているもののいずれも軽傷であり、剣の熱で傷が塞がるのは早い。
(やっぱ、所有属性武器程度の切れ味じゃこの丸太みたいな腕は斬れないか――)




