「砂塵の戦い――③」
『行くぜ!――踏ん張れよ、イフィ!』
『合点……承知だっての!』
滴り落ちる汗を拭い、イフィが顔を上げた。
遥か遠くで、倒れていた人影が起き上がる。
だがそこはすでに、風の矢の中心。
「食らえ――」
全方位より飛来する風の矢。そのすぐ向こう側に接近するフェイリー。
しかし褐色は全く動じず、それまでと同じように拳圧を放つべく拳を構える。
「――――なんつってな!」
「!」
フェイリーが手を広げると同時に。
すべての風の矢が、爆風の刃となって炸裂する。
刃の時雨が地面に幾条にも爪痕を残す。
辛うじて拳を向けていた方角を前転するようにして突き破り窮地を脱した褐色は、しかし左右背後からの斬撃をその身に刻み込まれる。
その傷に気を取られた故か。
白き刃の向こうから迫る上級魔法に、気が付かなかったのは。
「!」
「食らいやがれ、完全詠唱済みの――――風神の斬喝×2ッッ!!」
――褐色が、豪風にえぐられながら地を吹きとんでいく。
風の蛇はうねりを伴って学園区を端から端まで蹂躙し――突如消えた。
「!」
『やれイフィッ!!』
「一日三発が――限度だかんねっ、」
光速を以て褐色の背後に移動していた、イフィの一撃へとつなげるため。
「ッりゃああああッッ!!」
再び放たれた光速の蹴りが、褐色を背から遥か上空へと吹き飛ばす。
褐色は建造物を破壊しながら斜めに上空へ身を躍らせ、
ようやく、滞空するゼインを目視する。
「終わりだよ」
「!」
その手には彼の背丈ほどもある杖。
空間が歪むほどの魔力が充填され、時折閃光さえ放っているそれを、ゼインは――まっすぐに褐色の男へと向けた。
「狂嵐疾呼人鳥夢」
瞬間真空。
驚異的な空圧を伴う大嵐が学園区、否王都上空を侵寇し――――蟻のような褐色の大男を噛み砕いた。
「きゃああああっっ!!?」
「くぅ――何この風、すごいっ」
「……!」
その余波は遠く離れた地上にも及び、砂も瓦礫も人も魔も残らず強風に晒されていく。
地上を逃げる、ココウェルを連れた圭らも例外ではない。
圭は走りながら、遠くに見える術者のゼインを仰ぎ見る。
(これがアルクスの力……あれだけ恐れられていた褐色の男を相手に……!)
王国側の誰が敵か味方か分からない状況下での、敵の強襲。
そこにあってのアルクスの健闘は、圭の中にアルクスへの言い知れない安心感を生んでいた。
(逃げ切れる。これで後は俺がココウェルの手ずからの進行を諦めるよう説得できれば、何の心配もなく戦える――――)
誰がどう優勢であったとしても。
戦いの行方など、誰にも保障はできないというのに。
(……何だ?)




