「砂塵の戦い――①」
わずかにのけ反る褐色。
その一瞬を逃さず、イフィの蹴りが男の側頭を――
――立てられた腕によって防がれる。
(受け止めたッ――私のめいっぱいの一撃を!?)
イフィが目を見開いたときには、既に褐色の腕は受けた彼女の足に絡み付き。
(ッ!!折られ――「ッッ!!!」
――旋風一陣。
褐色の真下から放たれた大きく鋭い風の波動が、瞬時に防御へ転じた男をイフィの遥か上空へと押し上げていく。
「大丈夫かイフィ!」
「ありがとフェイリーっ、すごいね、上級魔法――風神の斬喝まで無詠唱で装填できるようになったの?」
足を振りながら、しかし褐色からは目を離さずイフィ。フェイリーも同じく目を褐色から逸らさず「まだ詠唱破棄だよ」と笑い、右腕のクロスボウに魔法を再装填した。
褐色は二人の視界の中で身をよじって風の波動から逃れ、ゼインの魔法による突風でよろめきながらもフェイリーらから遠い建造物へと着地しようとしている。
(――恐らくこの距離でも『射程圏内』ね、次の瞬間には攻撃が来ると思ってなくちゃ。ほんとイカレてるわ、あの男)
「傷がある」
「、え?」
「ダメージを負ってるんだ、少しだけ。さっきの矢と風神の斬喝で」
ゴーグルをかけ、その望遠機能で褐色を捉えたフェイリーが、信じられないといった口調で言う。
それも当然。相手はヘヴンゼル騎士団の騎士長を瞬殺したといわれる男なのだ。
「――確かなの? それがほんとなら」
「ああ。もしかすると、あいつ――」
眼前に拳。
フェイリーの顔面に飛んだ拳はしかし、瞬時に反応したイフィの蹴りによって横へ逸らされる。
同時にかがみながら後退したフェイリーが機関銃のような掃射音を響かせて風の矢を放つ。
褐色はあっさりとそれを避け、
「甘ェぜッ!」
「!」
――風に乗り、自分の周囲を翻弄するように奔る百以上もの矢の渦に捉われた。
『……イフィ。あいつはまだ一度も障壁を使ってない』
『うん。さっきの風神の斬喝くらい、精霊の壁を使えばある程度防げたはず』
離れた場所で、通信を使って会話する二人。
彼らはすでに、敵の「特性」に見当が付き始めていた。
『あいつ……使わないんじゃなくて使えないのかもしれないぞ。障壁』




