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「連撃」




◆    ◆




心臓を握りつぶされた。



 ほんの一瞬前まで、俺は本当にそう感じていた。



「――――はっ、」



 ココウェルの表情の変化からやっと察知できた、褐色の男の背後からの強襲。

 背に突風を感じ、やっと振り返ったときにようやく、直前の死んだ感覚が敵の殺気によるものだったのだと理解した。



「はっ……はっ、はっ……!!!」



 ――やっとのことで生命の危機を認識した体が今になって狼狽ろうばい安堵あんどを同時に伝えてくる。

 全身を汗が滝のように伝い、思い出したように足がしびれを訴えてくる。

 緊張きんちょう弛緩しかんが一気に訪れ、俺の感覚を狂わせている。



 二度目だ。殺気に体を硬直こうちょくさせられたのは。



 そんな俺達を、風の魔法で助けてくれたのは――



「させないよ」

「――ゼイン・パーカー!」



 対峙たいじする金髪と褐色。



 ゼインが――あの大男を止めたというのか?



「いいから早く、君達は逃げるんだ!」

「――――っ、」

「ケイ、急いでッ!!」



 ――背を向ける。



逃げるしかない。

 いくらアルクスが、目の前で本気で戦おうとしているとはいえ――ココウェルの身が安全でないこの状況では。



〝お前は魔王になるんだ、圭〟



「……どうすれば、あんな……!」



 殺気で人を殺すような、あの実力の域に。



 一体俺は、どのようにすれば届くというのだろう。




◆    ◆




(……あのレベルの風圧でようやく、攻撃を止められる程度か。これは出し惜しみなんてしていられない、かな)



 ゼインは先端に緑の魔石が光る背丈ほどの長さの杖を片手で振りかざし眼前に拳。



「――前衛ぜんえいは」

「!」



 ――ゼインの目の前に迫っていた褐色の男が、腹部に重い蹴り(・・)を食らってくうへ吹き飛ぶ。



 はためくのは、もう一枚のアルクスローブ。



「任せたよ。イフィ」

合点がってん!」



 地を砕く勢いの瞬転(ラピド)で飛び出していくイフィ。

 そこに遅れて参じるは、もう一人のアルクス。



「久々の連携だな。相棒あいぼう

「――まずは機動力を削ごうか。合わせてくれるかな、フェイリー」

「おうよ」



 複雑な溝が走った、手の平ほどの大きさの機械仕掛けの球体を握りしめるフェイリー。

 と――球体は緑色に発光しながら、彼の右腕に装着されたクロスボウへを出現させた。



 フェイリーが地を蹴ると同時に、ゼインが杖を緑色に発光させる。

 一瞬にして凄まじいまでの魔力を収束したその杖を、彼はまっすぐに褐色の男の居場所へと向け、



空足の羅針ティフォネス・ラウガー――!」



 対象となった褐色の男を中心に――暴風を発生させた。



「!」



 まさにイフィへと攻撃を見舞おうとしていた褐色が大きく体勢を崩して空を蹴り、後退していく。



「逃がすかッ!」



 追撃するイフィ。

 鮮やかなまでに見事に風に乗り、しなるように繰り出される蹴りの雨をしかし、褐色は覚束ない体捌たいさばきながら空中ですべていなして見せる。



 それ故か。



 褐色は背後から迫る風の矢に全く気付かず――三矢さんしすべてが男の背に突き立った。



『!!』


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