表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1033/1260

「等身大の王女」




◆    ◆




(死んだ)



 いつの間にか、眼前に断崖だんがいのようにそびえ立っていた褐色の男を見て、ココウェルは動揺どうようする間もなくそう思った。



(そしてまた死んだ)



 何故かその一撃は、イグニトリオの嫡子ちゃくしによって防がれ。



 でもそれさえ認識できないうちに、今度は世界が壊れた。

 目の前の光景すべてにひびが入り、聞いたことも無いような音をたてて崩れた。



 視界が傾いたのに気づいたのさえ、陥没かんぼつした地面に落下し始めた時だった。



(なのに……死後の世界って、こんなに楽で、さわがしいもの?)



 確実に命を落としたと思った。

 だが、楽になった(・・・・・)体は何故か少しの息苦しさと暑苦しさを感じていて――耳にはいまだ、先程聞いたばかりのような崩落の音が聞こえ続けている。

 これではまるで――



(わたし……まだ…………生きてる?)

「しっかりしなさいバカ王女ッッ!!!」

「っ!」



 ――その声の懐かしさと、苛立いらだちに。

 ココウェル・ミファ・リシディアの意識は完全に覚醒かくせいした。



 やけにうるさい。

 目が痛い。

 視界が茶色い。

 息が苦しい。



 砂煙すなけむりの舞う中、マリスタ・アルテアスにかばわれるようにして覆いかぶさられていては、それも当然のことだ。



 一度は着く地を失った両足も、しっかりと体ごと地面に倒れている。



(こいつに……助けられた?)

「ああココウェルっ、良かった! もぉー落ちてってるとこ見つけたときはダメかと思ったわよ!? 生きててよかった!」

「あんた……確か離れたとこにいなかった? 商業区隊に割り振られてたんじゃ――」

「あはは、そうなんだけど……急にアルクスの人の叫び声聞こえたじゃん? なんかそれ聞いて、あぁたぶんアンタが危ないって。それでもイグニトリオ君より遅くなっちゃったけど」



 砂で汚れた顔で笑うマリスタ。

 それを見た途端とたん、何故か心がゆるみ――気が付けば、ココウェルはマリスタのローブのそでを握りしめていた。



 そうなってからは、もう止まらなかった。



「――助けて――」

「え?」

「助けて、たすけてたすけてたすけて! あぁ、わた、わたし……!しぬかと思った、もう駄目だと思った……!!!」

「――――!」



 ローブを握る拳に込めた力を抜くことができず、逆にどんどん力が強くなる。

 マリスタは一瞬あっけにとられてそれを見つめていたが、やがてしんの通った表情で力強くうなずいた。



「大丈夫。私があんたを絶対守っからね! それにあんたは――」

「マリスタ!」

「マリスタさん!」



 ズシャリ、と二つの影が近くに降り立ち、煙を払って姿を現す。

 一人は見ない顔だったが、もう一人は――今ココウェルが心を許せる数少ない人物だった。



「ケイ……ケイっ!! こわかった、わたし、こわか――」

わかってる、だから黙れ。敵に位置を気取けどられる前に――」



 もっともだ、と口を閉じようとしたその瞬間。



 首根くびねに手を差し込まれたような不快で思い感覚が、ココウェルのすべてを奪った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ