「砂煙の楼閣」
「……参ったよねー、腕の力でコレだから。剛鱗剣セロカリブも折れるワケだよ」
「掴まれたのか……!? 馬鹿な、イグネアの剣身は高熱で――」
「イカレた相手なのは解ってただろ、いいから王女を! 僕らの班にいたんだ、そう離れてないはず、急いで!」
言うなり、俺より先に砂塵の中へと飛び出していくギリート。
痺れる頭部の真ん中でぼやける目を擦り、思考をクリアにする。
「行こう、アマセ君! 早くしないと王女様――」
「ああ。魔素と砂煙で状況が分かりにくい、用心しろ」
「うん。一瞬だったけど、敵の気配は覚えたから――」
「あの褐色だけじゃない。裏切者にもだ」
「!? う――」
リリスティアの返事を待たず、わずかに見える建造物の残骸を頼りに方角に見当を付け、砂煙へ飛び込む。
あの王宮魔術師長が一緒に居てくれれば――いや。今となってはそれも……!
「あ、アマセ君っ! 裏切者ってどういうこと!?」
「敵は真っ直ぐに王女を狙ってきていた。だがそんなことが奴らにできた筈がないんだ」
「え……」
「敵は学園区をまだ占拠できていない状態でも、『城以外はすべて我らの手に落ちた』なんてハッタリを喧伝する奴らだ。王女がプレジアにいることを奴らが知ってたなら、ここぞとばかりにその状況を利用した筈だ。それに王女を狙うにしろ」
「ヘヴンゼル学園と合流する前を狙ったはず、ってこと?」
「ああ。つまり敵はごく最近『ココウェルが学園区にいる』情報を得たことになる」
「……!! ちょっと待って、じゃあ裏切者って――」
「敵が全国放送を行えた以上、放送局も占拠されてる。王都内の力場を操作されて、王国の奴らはかなめの御声を使えない。使えるヘヴンゼルの学生と教師に情報が渡ったのは作戦直前だ」
「だから、情報を流し得たのは……!!」
「そうだ。ココウェルやペトラ達と一緒に御前会議に参加していた、グウェルエギアの教授連中か……王宮魔術師長しかいない」
「――そんな――……!」
〝彼らヘヴンゼル学園の者達がどんな不当を働こうとも――――〟
……瓦解だ。
誰が裏切者か分からない状況で、連合もへったくれもあったものか……!
『こちらゼイン。王女発見だよ』
『!!』
ゼイン・パーカーの声が、被ったフードからハッキリと聞こえる。
リリスティアと目を合わせ、恐らく強めに発しているのであろうゼインの魔波を捉え、迅速に移動を開始する。
何でもいいから生きてろよ、ココウェル……!!




