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「崩壊の世界」

「教師陣は事前確認通り動け! それ以外の王女近辺の班は王女を探し保護、アルクスの到着を待てッ!」

『了解ッ!』

『あいよ』

『分かった――』



 数ある返事を待たず、ガイツがかなめの御声(ネベンス・ポート)を切り替える。

 アルクス専用のチャンネルだ。



「総員計画変更、全員で王女を捜索そうさく、保護のち王都外の拠点きょてんまで一時撤退いちじてったい――」

『ガイツ、ペトラ。お前達は別行動だ』

「――っ!?」



 ――声の主はフェイリー・レットラッシュ。

 離れた場所で王女を探していたガイツとペトラは一瞬面食らい――先に口が出たのはペトラだった。



『馬鹿言うなッ! あの(・・)褐色かっしょくの男だぞ!? 全員で――』

『国側の連中との合流を優先してくれ。今後必要になる』

「!」

『最優先事項は王女だッ! それ以外に優先すべきものは――』

『連合を確認する(・・・・)こともリシディア守んのに必要だろうがッ!』

『確認っ? 一体何を――――!!』



 言葉を切り、黙り込むペトラ。

 この瞬間、フェイリーの言わんとしていることをアルクスの誰もが察した。



『王国軍の代表……王宮おうきゅう魔術師長まじゅつしちょう王国騎士おうこくきし、グウェルエギアのおえらいさんとちゃんと話したのはお前ら二人だけだ。だからお前らにしか任せられない』

『フェイリーの言う通りよ。それに今となっては――私達(・・)は、もう』



 イフィが言葉をにごす。

 落胆の色濃いその声が何を言おうとしていたか、もはや聞くまでもなかった。

 崩れた建物のへりを足場に、ガイツが動きを止めて言う。



「――わかった。王国軍との合流を優先する。お前もだ、ボルテール兵士長」

『……死守してみせる。やっとつかんだ国とのつながり(・・・・)は必ず守る。だから、みんな――』

『心配すんな!』『王女は必ず守るわ!』『お前ら以外全員でかかってやるぜ』『ぶちのめすッ』『終わらせやしねえ……!』

『こちらゼイン。王女発見だよ』

『――――散会!』



 ゼインのほうかなめの御声(ネベンス・ポート)を打ち切ったガイツの声に応じ、アルクスが散る。



 崩壊したヘヴンゼル学園は、既に砂塵さじんの荒野と化していた。




◆    ◆




『教師陣は事前確認通り動け! それ以外の王女近辺の班は王女を探し保護、アルクスの到着を待てッ!』

「アマセ君――アマセ君!」

「ッ――!!」



 ――急に轟音ごうおんが遠く、視界が暗くなる。



 いや違う。フードをかぶせられたのだ。

 気付けばアルクスのローブのフードが俺の頭をおおっていて――一体どんな作用によるものか、雑音が限りなくさえぎられる作りになっているようだ。

 おかげで、俺はようやく――周囲の人間の状況に意識をることができた。



 地下に敷かれていたらしい魔装機工まそうきこうが寸断され、魔素の光が可視化かしかされて辺りに、まるでほたるの光のように飛び散っている。



 そんな幻想的な背景の中。



「アマセくんっ!!? ちょっとまって、」



 一人、また一人と人間が、学生が、非戦闘員が、怪我人けがにんが――――



 ――――背を強く後ろに引っ張られ、瓦礫がれきに消えていく人々が遠ざかる。



 それを認識したときには既に――頬を平手で打ち抜かれていた。



「――――ギリー、ト」

いま衝動しょうどうで動くなって!!!」



 見たこともないほど余裕を欠いたギリートの表情と叱咤しったに、逆に冷静さを取り戻す。

 どうやら考えなしに人々の中へ飛び込もうとしていたのを引き留めてくれたらしい。



 隣ではリリスティアまでが、心配そうな表情を浮かべていた。



「――悪い、悪かった。少し動転し過ぎ――――――、、」



 ――――その、二人の、間で。



 まるで針金か何かのように、無様にひん曲げられた(・・・・・・・)魔装剣、イグネアが小さく揺れていた。


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