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「連合軍壊滅」



「――閉じろ――」



 誰一人、そんなものを認識する段階にない。



 先頭の者達すべての目を引くのは、ただ一点。


 ヘヴンゼル騎士団第五(だいご)騎士長きしちょう、ゼガ・ラギューレをあっさりと葬り去った褐色かっしょくの男が今、自分たちの前に――――――



『――障壁しょうへきを閉じろッ!!!』



 言うが早いか、ガイツとペトラが障壁の外へと飛び出す。

 イミアは彼らの時間稼ぎ(意図)を理解し瞬時に反応、障壁操作の主導権を奪い最高速度で障壁を閉じていく。

 それを横目に確認しながら、イフィと騎士のアティラス・キースは事前のそなどおり指示・伝令でんれいを飛ばそうと背後にひかえる者達へ振り返り――――



 連合軍の只中ただなかに、まるで当たり前のようにたたずむ褐色の男を認識する。



『――――は?』




◆    ◆




 夢でも見ているのかと思った。



 つい一瞬前まで、どこか遠くの話であるかのように夢想し、知り合い達と話していた褐色の男。



 ガイツらの出発の合図に顔を上げ、切り替わらぬ頭を無理矢理切り替えようと一呼吸し、まばたきをした次の瞬間――――そいつはまるで最初からそこにいたかのような自然さで、中軍(本隊)である俺達に向き合っていた。



 事を認識できず戸惑いを覚えた時には、既に奴の視線は俺を通り過ぎていた。



 ――――数瞬すうしゅん

そして理解する。



「ココウェル・」



 褐色の男が目の前にいること。

 連合軍はあっさりと本部への侵入を許してしまったこと。

 イフィの感知にさえひっかからない実力者であること。

 この男の侵入をガイツもペトラもイミアもアティラスもトルトも感知できなかったこと。

 故に、この男が第五騎士長をあっさり葬ったという話は――――間違いなく事実であろう、という確信。

 そしてこの男が今、



「ミファ・リシディア」

「え、」



 戦いさえ始まらない内に、ココウェル(この国)ほろぼす王手をかけているのだ、ということを。



「その男を止めてッッッ!!!」



 熱。

 爆音。

 そして悲鳴。



 あまりにも遅すぎたイミアの悲鳴が、俺の耳に届くより早く。



 ギリート・イグニトリオは、爆炎(ほとばし)魔装剣まそうけんイグネアで敵の手を――――



 ――違う。



「おっほー……イグネアを鷲掴わしづかみして無表情?」



 ギリートが敵を止めたのではない。

 この一瞬、既に戦いの主導権を握っているのは褐色の方だ。

 その間、俺にできたのは役割を果たすため飛び出そうとわずかにひざを曲げただけ。



 強化された動体視力だけが成り行きを認識させる。

 眼前の形勢がまた逆転しようとしていることを伝えてくる。



 いかに速かろうと、褐色は一手でココウェルを殺し損ねた。

 それだけの間を実力者たちが逃すはずはない。



 褐色へ向かって、実力者らがめいめいの武器・魔法を構えてんでくる。



 あのアヤメでさえ、トルトとギリートの二人にし切られていたと聞く。

 この数なら――

                (この程度の数で、)



 ――どうなる(・・・・)というんだ?



 吐きそうな程の力の(・・)感覚。

 飛んでくるガイツらの動きを遅く感じた理由を悟る。

 褐色は既に次の攻撃を実行していたのだと分かった。



 だが分かっただけだ。

 どんな攻撃がどこから飛んでくるのか、力が大きすぎるせいか上手く読み取――――



「――――あ、」



――読み取る間など与えられもせず。



 静かに、だが激しく、足場が悲鳴を上げる(・・・・・・・・・)



 何が起きたかなど見るまでも無かった。

 だって視界に映る全ての建物さえも――地と同じく、地割れのような音と揺れと共に巨大な亀裂きれつを入れられていたのだから。



「ッッ――――総員()べえええええッッッ!!!!!!」



 ガイツの怒号。

 それを合図としたかのように、地にり立つ万物は、



剛蓮ごうれん



 王立ヘヴンゼル学園は。

 連合軍本部、王女を守る最後のとりでは。

 練りに練り上げられたすべての計画は。

 リシディアの希望は。



 轟音ごうおん砂埃すなぼこりの地獄へと、何もかも崩れ落ちていった。


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