「『死ぬ覚悟』と『殺す覚悟』」
非日常を送るため、積極的に日常を作り出す。
そんなことをしなければ、人は――俺は復讐を送ることができないのだろうか。
違和感が拭えない。
確かに、「死ぬ覚悟」であればこんな感じでいいのかもしれない。
死の恐怖から目を逸らすのは、すべての人が常日頃からしていることだ。
だが、「殺す覚悟」で考えたときは、どうだ?
そうやって、非日常にバランスを求めて……そうして得た日常な自分で、目の前の人間を殺すのが果たして上等だろうか。
ただの正当化じゃないか?
罪悪感から逃れたいだけじゃないか?
戦争で、正当に、人を殺すのが、正しいことだと?
その手を血で汚しておいて尚、日常の陽だまりに自分の居場所があると?
〝闇に踏み入れば、二度と陽の光の下には帰れない〟
「人を殺す覚悟」が、その程度のものでいい筈ないではないか――
「それでも生きなきゃいけない世界だからね、ここは。君の世界がどうだか知らないけどさ」
――――。
「……別に何も言ってないぞ」
「表情で解るって。それでも彼らを責めるのはお門違いだよ、ってこと」
「別に俺は」
「人を殺すことへの覚悟が違う、とか思ってたんでしょどうせ」
「…………足りない、と思うだけだ。人の命は重い」
「じゃあ戦争の英雄は皆、惨たらしく破滅しなければいけないと思う?」
〝例えこの身がどんなに惨たらしく醜悪に破滅しようとも〟
「……どんな目的のための殺しかで、変わる」
「でも君はそう思わないんだな」
「……だが、」
「うん。それであってるんだと思うよ」
「何?」
「無理やりにでもさ。納得して進むしかないんだよ。『僕ら』はもし、戦いの中で人を殺してしまったとしても……先の人生を生きていかなくちゃいけないんだから。罪悪感に苛まれてばかりの人生なんて嫌じゃない」
「…………」
「君はどうなの?」
「……え、」
「ほらアルクスのみなさん。さすがにそろそろ時間がアレですよ」
「……そうだな。行くぞイフィ、ゼイン。また戦場に」
「……ああ。行こう」
「いよいよだね……またねシャノリア、アルテアス! 次はもっとゆっくり話しましょ!」
「はい!」
「ええ、わかった」
……去っていくアルクスを、見送るシャノリアらを眺める。
この戦いの。
人を殺した、先の道。
俺は、まだ誰も殺したことが無いのだと気付いた。
〝君はどうなの?〟
殺した後なんて。
復讐を果たした後のことなんて、考えたことも無かった。




