「非日常下の日常譚」
「ガイツとか、ディノバーツとか、ボルテールもそうだろ。あいつもまたとんでもなく強かったからな」
「実技試験の優勝にかけるモチベーションが違ったよね。むしろ優勝は当たり前だと思ってたかな」
「お前だって、六年生の時に魔術を完成させてからはディノバーツにも勝ったじゃねえか」
「判定で何とか、ね。あの時からディノバーツは頭一つ抜けてた」
「ほえー・・・歴史があるんですね」
「ふふん、あるんですよ~? そして……これからもどんどん生まれてくるの」
「え」
「あんたたちの世代のことよ、アルテアス。だからしっかり生き残って、次の世代を担える人間になってよね」
「え、え。えへへ……頑張ってみます」
……この戦時下で、一体何を無意味な先輩後輩をしてるんだ、こいつら。
付き合っていられ――
「『付き合っていられない』、という顔かな。それは」
「……そうだ」
「ハッキリ言う奴だな、相変わらず……この緊急時にのんきなもんだ、ってか? でもなアマセ。『だからこそ』なんだぜ」
「は?」
フェイリーは額にかけたゴーグルの位置を直しながら、閉じていた目を開け、視線を横にやる。
そこには未だ思い出話に花を咲かせている、マリスタやイフィ、シャノリアの姿。
「戦場では一瞬たりとも気を抜いちゃならない。ここはそういう特殊な場だ。でもずっとその状態だと心が参っちまう……だから少しでも必要なんだ。『日常』が」
「気を張ってばかりいると、どこで気を張るべきかさえ解らなくなっちゃうからね。メリハリが大事ってこと、かな」
「そういうこった。もしかしてアマセお前、頑張りすぎて動けない日とか、あったりすんじゃないのか?」
「はは。当たってんじゃん」
「入ってくるなギリート」
「自分じゃそこまで意識してないかもだけど、君学祭の準備期間もしょっちゅう休んでる日あったよ? そんなときはいっつもアルテアスさんが訳知り顔で『あいつは頑張りすぎて動けない電池切れの日があるんですよ』って吹聴してたんだから」
「あの女……」
「ははは――だがまあ、気が抜けないのは理解できるさ。実際、俺も上手くリラックスできるようになったのはアルクスになってからだしな。実地試験の時なんて緊張しすぎて周りの音全然聞こえてなくて死にかけたし」
「でもおかげで頭が冷えたよね。物理的に血が抜けたから、って意味だけど」
「ははっ、そうだった。俺とイフィとゼインとで、なんとか冷静さを取り戻して連携できたからよかったもののな」
「ほんとに。あれのせいで、合格発表の時余計な不安を背負いこむことになったよ」
「…………」
……この会話が必要、ということなのだろうか。




