「6年前の学生達」
「て、ていうかシャノリア先生!? 今『王都全域』って言いました!? 私達がゴハン食べたりしてる間に!?」
「え……ええ、そうよ。何、そんなに意外?」
「や、だってまだ二時間くらいしか……え!? アルクスの人達が行ったんですか?」
「私が行ってきたんだよーっと」
――空で藍色の金をはためかせ。
振り回すようにしてアルクスのローブを着ながら、イフィ・ハイマーはゼイン・パーカー、フェイリー・レットラッシュを連れて俺達へと歩み寄ってきた。
「え、えっとあなたは……」
「イフィ・ハイマーさん。アルクスの偵察のスペシャリストよ」
「いちおこれでもファンは多いんだけどね、義勇兵コースの子にも。まあ仕事柄カゲ薄いし、仕方ないか」
「わ、私がってことは……一人で行ってきたんです??!」
「そうだよ? そのくらいできるようにならなきゃ、一人前のアルクスとは言えないんだなぁこれが。ははん」
「天狗になんなよ。すぐそうやって油断すんだお前は」
「油断じゃないわよ、こりゃ先輩風吹かせてんの。しかも相手は大貴族様よ? たまには許してよ」
「『先輩風』、別にいい意味じゃないけどね」
「そんなだから実技試験でディノバーツに勝てなかったんだろうな」
『!』
「オラフェイリー! 今言わなくてもいいでしょが今っっ」
「あ、あの! 一つ質問してもいいですかっ」
マリスタが小さく手を挙げながらイフィに言う。
気になるのか、ロハザーやビージも横目で注目している。
「ん?」
「えっと、私、ハイマー……先輩と中等部でも一緒にならなかったから、よく分かってないんですけど。みなさんとシャノリア先生って……」
「ああ。同期だよ。シャノリア先生とは」
「えええええっ!! そうだったんですか!」
「ふふ、そうだよー? ここにいるパーカー先輩もレットラッシュ先輩も、みんなそう」
イフィはますます気を良くしたようで、満足気にマリスタへ笑いかける。
涙袋のせいか、いやに印象に残る笑みだ。
「言うほど上か、俺ら? この子らの世代と比べて」
「言うほど上よ。だって私達が学生だったのって――」
「もう六年前、かな。僕ら皆、二十四歳になるから」
「へえ……じゃあもう六年もやってるんスか。アルクス」
興味を抑えきれなかったらしく、ロハザーが会話に参加する。
「そうなるな……比較的長いな。俺らも」
「アルクスは、三十歳までしか務められないからね。考えてみれば、僕らも古参な方かな」
「ふふ、懐かしく感じるわけね。学生の頃が」
「そーぉ? 私は昨日のことのように覚えてるけどなー」
「やっぱり皆さんも試験とか受けたんですかっ! 実技とか筆記とかっ!!」
「おお、受けたぜ。俺とゼインとディノバーツは、実技試験じゃよく優勝してたもんだよ」
「ええっ!? シャノリア先生も!?」
マリスタがシャノリアに目を剥く。
「意外だ……」と呟いたビージが視界の端でヴィエルナに脇腹を小突かれて呻いた。
シャノリアは特に慌てることも無く応じる。
「過去の栄光だから、そんなの。何の自慢にもならないわね」
「カァー出たよ、聞いた今のゼインっ」
「黙った方がいいね。ひがみっぽいから」
「てことは、ディノバーツ先生も……義勇兵コースだったんスか」
「あッッちょっと待ってロハザーそっかそういうことになるか!!! え!? シャノリア先生っ、義勇兵コースだったってことですか!!?」
「そ、そうよ……何、そんなに意外?」
……少し意外だった。
人が義勇兵コースを希望したとき、あれだけ脅し付けてた奴自身がそのコースとは。
「意外ですよ! しかも実技試験優勝なんて!」
「俺らが上級生の時は、まさに群雄割拠、ってなもんだったもんな、イフィ」
「ええまったく。私みたいな戦闘には向かない奴は決勝トーナメントにもなかなか届かなかったもの。よく優勝してたのは――」




