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「ほんの小さな可能性でさえ」



 俺の肩を持ったのはギリートだ。

 そしてマリスタの側に付くのは――



「イグニトリオ君。またヘイト買うからやめなさい」

「ノーヘイトノーライフですよ、シャノリア先生。それに、ない話じゃないでしょ? もう彼らティアルバーには、この国で生きる道なんて残ってないんだから」

「だからっっ、そんな決めつけは――」

「やめだやめ、終わりだもうナイセストの話は! 意味ねーんだよ!」



 言い争いに発展しそうな場を制したのは、意外にもロハザーだった。



「ロハザー!? あんたさっきまで、」

「確かにアマセの言う通りだろ、感傷かんしょうに浸ってたってしょうがねえ。でもアマセ! おめーも歯に衣着せて(・・・)発言できねーならもう黙って離れとけよ。できただろお前ならもうちっと柔らかく言うとか、スルーするとかよ! そんで――」

「少しでも情報を得る、そのためだけに俺はここにいる。そこに勝手にナイセストの名前を持ち出してひたりだしたのはヴィエルナだろうが。苦言くげんなら話の腰を折った張本人にしてやれ」

「今から言うとこなんだよ、話のコシ折んなバカッ!…………ヴィエルナ、もう考えんな。あいつのことは」

「……戦えない」



 ヴィエルナの正面に立つロハザー。

ヴィエルナはより顔をうつむかせ、体を小さく押し固めた。



「私。ナイセストとは、戦えないよ……!」

「っ……!」



 ――他愛たあいもない可能性。

 歩けば石につまづくかもしれない、という程度のこと。



〝……好きだった。私、ナイセストが。きっと〟



 たったそれだけの、ナイセストが倒すべき――いな殺すべき(・・・・)敵として現れる可能性を前に、義勇兵ぎゆうへいヴィエルナ・キースは動けなくなってしまっていた。



 だがそれは――



「……情けねーぞ。天下のヴィエルナ・キース様がよ」

「…………」

「だったらなにか、ヴィエルナ。オメーは万が一、ナイセストが敵として俺達に立ちはだかったら……もう殺すしかねえと、そう考えてんのか?――――あのときナイセストと戦った時の強い気持ちはドコ消えちまったんだよ?」

「!」



〝私も、自分の心に従って戦うの〟


〝――でも私は、何よりも……あなたの笑顔が見たいよ。ナイセスト〟



 ヴィエルナが顔を上げる。

 ロハザーはまゆをキッと吊り上げて、鼻から息を吹いてみせた。



「逆にいい機会じゃねえかよ。ナイセストが俺らの前に立つんならそんときゃ、今度こそ俺らが奴を止めりゃいい。正面しょうめんからパンチ食らわせて、そんで一括してやりゃいい。それでこそ義勇兵ってもんだろ、違うか? ヴィエルナ!」

「……うん。ありがとう、ロハザー――ごめんマリスタ、みんな。もう大丈夫」



 ――大丈夫なわけではないだろう。

 感傷は、苦しみは未だヴィエルナをさいなみ続けているだろう。

 だが俺達は今戦場にいる。そこで感傷が不要なのは確かだ。



 だから立ち上がるための方便いいわけが必要だった。

 ロハザーはそれを解っていて、恥ずかしげもなく語った(・・・)のだろう。

 ヴィエルナもそれが解って、納得はせずとも立ち上がった。



〝殺す。家族を殺した者を、この俺の手で。必ず〟



「――シャノリア。アルクスの斥候せっこうとやらは王都全域(ぜんいき)を見回ったのか」

「え? そう聞いてるけど」

「その中にナイセストの情報はなかったのか?」

「ええ、なかったわ。もっとも、逆感知を恐れて感知はそう詳細にはできなかったみたいだけど」

「……だそうだ。ひとまず、ナイセストはいないと考えていいんじゃないか。ヴィエルナ」

「やっさしーのねアマセケイくんはー」

「黙れギリート」


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