「再会の予感は最悪に」
ナイセスト・ティアルバー。
数か月前の実技試験、俺との戦いにおいて奴は国がその行方と在り処を追い続けていた魔術、「痛みの呪い」を発動させて拘束、プレジアを退学させられた。
二十年前の「無限の内乱」において、合わせ数万を超える精神崩壊者と死者を出し、今なお根本的な治療法は解明されず、犠牲者を増やし続けている――にも拘らず、この二十年間術の開発者に全く辿り着けなかった「痛みの呪い」。
そんな術が、事もあろうにリシディアが誇る四大貴族の一、ティアルバー家の嫡子の精痕から発見された。
「痛みの呪い」はティアルバーの開発した魔術だったのである。
実技試験は多くのプレジア関係者に目撃されていた。
「痛みの呪い」の真実がリシディアに、世界に広がるのにそう時間はかからない。
ティアルバー家は瞬く間に資産を没収され、所有物件にはすべて捜査の手が入り――大貴族から一転、名を口にすることさえタブーな存在へと堕した。
その後の消息については、一切の情報が無い。
国の汚点としかなり得ないティアルバー家の人間はもう、秘密裏に処刑されてしまったのでは、と過去にギリートは言った。
だが、その可能性は低いのではないか。
国際情勢を見ていると――ティアルバー家だけでなく、リシディアという国そのものにけじめを求める各国首脳の声も相次いでいる。
糾弾の声は留まるところを知らず……リシディアはとりあえず、真相の解明中であることを盾に、なんとかやり過ごしているような状況だ。
真相の解明。
考えてみれば、そのためにティアルバーの協力は不可欠であるように思える。
処刑するにしても、「痛みの呪い」のすべてが解明されてからになるのではないか。
そして、もしそうだとしたら――ティアルバー家の置かれている状況は、奇しくもフェイルゼイン家と同じだ、ということになる。
「……ま。まさかティアルバーさん……このクーデターに関与してるなんてことは――」
「ビージッッ!!て――テメェ滅多なこと言ってんじゃ――」
「可能性としては考えておくべきだろう。当然」
「ッ――アマセェッ!」
一瞬、目線をヴィエルナに移しながら怒鳴るロハザー。
ヴィエルナの心情に配慮しろという訳だ。
馬鹿々々しい。
「人のことを気遣ってる場合か。考えられることは考え、備えられることには備えておくべきだ。それでもしナイセストと戦うことになって犠牲が出たら、お前そいつになんて詫びるつもりなんだ」
「戦争言い訳にすりゃ何してもいいってのかッ!」
「人情ごっこなら他所でやってくれよ。お前らの感傷に俺を巻き込むな」
「ちょっとケイ、そういう言い方――」
「やーでも、実際ホントにあるかもよ?」




