「かつての同胞」
「そういうこと」
ロハザーとマリスタの驚きの声を背景に、ギリートがあっさり首肯する。
「今の共闘があるのはなんでさ。お姫様がプレジアとリシディアの間を取り持ったからでしょ。そのお姫様を完全にリシディアの連中に任せて、万が一王女なんて最初からいなかったことにされちゃったらどうするのさ」
「さ――」
「――あの魔術師長が王女を殺すってこと!?」
「馬鹿だなーアルテアスさんはホント。王女をどっかに隠されちゃうってことだよ。王女がいることをまだお城には知らせてない。共闘ってことでプレジア勢は我々を信用してる。不穏分子であるプレジアを叩き潰して、それと王女の保護をシレっと自分たちの手柄にして国に報告すれば自分らの地位も身も安泰だ。箱入り娘の言葉なんてそう影響力はないだろうから、お姫様が真実を話したって誰も取り合わない。こんな絶好の機会はそうそうないだろ?」
「そ……そんなことまで考えてるっての? その、国の人たちは」
「警戒するに越したことはないって話。ま想像ですけど? でもそれだけ偏った編成に同意したのはそういうことじゃないかな、って。とにかくお姫様を隠されてからじゃ全てが遅いからね」
「…………」
アルクスが、リシディア側のそうした魂胆の見え透いた案を受け入れた。
つまり彼らは今もずっと……水面下で王女の取り合いをしてるってことだ。
表面上は、いかにも共闘している風を装いながら。
〝ガイツとペトラ、両兵士長からのキツーいお達しだったわ。『せめて我々は、学びを生かさなければならない』って〟
「……信頼関係もクソも無いんじゃないか、結局。お互いに相手を出し抜こうとしているばかりで」
「差し出した手を打ち払うんだもの。向こうがね」
俺の言葉を食うように、あからさまに不機嫌な顔でシャノリアが言う。
「お互いに歩み寄るからこその信頼よね。一方通行の歩み寄りなんて従属も同然だと思うわ」
話が途切れる。
その沈黙が、共闘の虚しさを心の芯まで思い知らせてくれた気がした。
「……あの、シャノリア先生。話題は変わるんだけど……私、一つ思い出したことがあって」
「何?」
「敵のボスの名前、『なんとか・フェイルゼイン』で確定、って言ってましたよね。それってもしかして……マトヴェイ・フェイルゼイン君のお父さん、とかですか」
「……そうよ」
辛そうな顔で、シャノリアがマリスタの言葉に頷く。
マトヴェイ・フェイルゼイン……聞いたことのない名だ。
「よく俺達と一緒にいたのさ。マトヴェイの奴は」
シャノリアの話を継いだのはビージ。
「俺達と一緒にいた」……それだけで、マトヴェイという男がどういう人間だったのか、なんとなく解るような気がする。
ロハザーが片眉を眉間に寄せてマリスタを見た。
「ンだマリスタ、おめー面識あったんだっけ? マトヴェイの奴と」
「いや、私その。少し前までマトヴェイ君に……いじめられてた、らしいから」




