「軍議、その水面下で」
緊張感のない奴だ。
「その辺の理由聞いてないんですか? ディノバーツ先生」
「……ワーグテイル、とかいう陰気四角メガネ触角オトコの提案でね」
「シャノリア先生ワルクチぜんぶもれてます」
「『褐色の男』が出た場合、アルクスがおとりになって彼を引き付けることになったの」
「……ま、王都やお姫様のことは魔術師長や治安部隊の方が詳しいですからね、優先順位的にはそうなりますね」
「……馬鹿にされてるんじゃないのか、それ」
俺の言葉に、ギリートは少しだけ動きを止め――またすぐに鏡へ視線を戻した。
「まー、リシディアから提案があったってことはそうかもね。あんなギャグみたいに偏って編成しないとお姫様を守れないと思われてるワケ」
「そっ……それってヒドくないですか、シャノリア先生!」
「ホントよ。あの全身藍色の絶対私より年増王宮魔術師といい、アルクスをなんだと思ってるのかしらって、思ったわよ」
「いやあの、えっと。だからその、シャノリア先生全部出てますって」
「でもペトラちゃん――ボルテール兵士長は、それを認めたの」
「……え? ど、どうしてですか? そんな見下された扱いされてっ、一緒に戦うためとはいっても――」
マリスタが眉を顰める。
だが気持ちは解らんでもない。
先の、ヘヴンゼル学園の正門でのイミア・ルエリケとペトラとの命懸けのやりとりといい――アルクスは少しやられっぱなし過ぎる気もする。
でも、
〝僕らには『厳命』が下っていた。彼らヘヴンゼル学園の者達がどんな不当を働こうとも、決して武力で訴えかけてはならない、ってね〟
――それがアルクスの現在の方針なのだ。
「はは。そりゃ考え浅いよ、アルテアスさん」
「……え? どういう意味、イグニトリオ君」
パタン、とギリートがコンパクトを閉じ、懐にしまいながらマリスタを見る。
「アルクスが偏った編成をよしとしたのは、何もその『褐色の男』とやらだけが理由じゃないってことさ」
「な――それって」
「ほかに明確な理由があるのか? ギリート」
「あっ、ちょっとケイ私がっ」
「『お姫様』さ。これだけ言えば君なら察し付くでしょ」
――お姫様。
ココウェルの存在が――
――そういう、ことか?
「ちょっとっ、何ケイだけナットクしてんのよっ、私にも教えてよーっ」
「馬鹿だなマリスタおめー、相変わらず」
「なっ……じゃあロハザーは解ってるのっ?」
「王女様だぞ、大体分かるだろ。王女様も戦場に出るんだ、護衛は大いに越したことはねーだろ? そういうこったよ」
「ちょっと違うのよ、ハイエイト君」
「え?」
「ロハザー。傾聴」
「だっさ~」
「てめ……」
「『王女の護衛』でもないなら……まさか、王女を奪われるのを阻止するためか?」
『えっ!!?』




