「編成駆け引き」
「兵隊さんの出番でしょう」
バニングの言葉を遮るようにして、クリブ・ワーグテイルが言った。
何かを鼻で笑うような仕草とともに。
「騎士長をあっさり殺れるような奴を、今ここにある兵力でどうにかできるとも思えません。城での顔利きの意味で魔術師長は必要、道案内は地理に詳しい治安部隊敗残兵で十分。となれば真っ先に――アルクス以下プレジアの者がオトリとなって敵を引き付けるのが最善でしょう」
『!!』
――シャノリアは肚の底が煮えあがるのを感じた。
そう考えた者も決して少なくはないだろう。
しかし、それでも――あまりに配慮に欠けた発言ではないか。
「そ、そういう言い方はないでしょうワーグテイル先生」
「だから……聞いてないのか話を、ロイビード先生。言動を気にしてる場合かって言ってるんだ何度も言わせるな鬱陶しい。優先順位も付けられないなら出ていったらいかがで――」
「先手はアルクスが引き受けましょう!」
不毛な言い争いを打ち消すように、大きな声でペトラ。
ガイツは彼女を見たが、反対することはしなかった。
「アルクスには敵感知等を専門にする者もいます。構成員が欠け、動ける者も少ない治安部隊の方々よりも、我々が適役かと存じます」
「――土壇場で怖気付かんことを期待してるよ」
「……では、具体的な部隊構成に移りましょう」
クリブの皮肉めいた笑みを無視し、ガイツは話を前へと進めた。
◆ ◆
部隊は再編成された。
大きくは、王城区へ進む王城隊、そして敵の本拠があると目される商業区へ進む商業隊。
王城隊には王宮魔術師長イミア・ルエリケ率いる班と、俺やギリート、リリスティアのいるシャノリア班、トルト班、アドリー班。そして部隊の警護に、ガイツ以外のアルクスが先鋒隊として付くことになった。
商業区にはマリスタらがいるサイファス班、ヴィエルナらのいるファレンガス班、そしてガイツ。
つまり大半の戦力がヘヴンゼル学園外へ出てしまうことになる。
ということは――
「……シャノリア。まさか王女は、」
「そうよ。王女殿下は魔術師長さんの班に守られて付いていくの。気になる? 王女様に親しい人間としては」
「親しくない、勘ぐるなバカ。疑問が残るだけだ。なぜ連れていく? 敵に発見される危険もあるのに。敵の狙いが国家転覆である以上、王族は――」
「お城には、王家の血筋にしか展開も解除もできない『王壁』と呼ばれる守りがあるの。王都のどこにいるよりも、そこにいた方が安全……という判断みたいね。表向きは」
「裏向きは、王女が国王の下に行くと言ってきかなかった……ってところか」
「……どちらかというと、魔術師長さんの勧め、って印象が強かったように思えたわね」
「……城の勝手知ったる奴が言うなら間違いない、と思うしかないな」
「でもそれにしたってアルクス偏り過ぎだよねぇ」
持ってきていたらしいコンパクトタイプの手鏡で髪を整えなどしながら、ギリートが言う。




