「最強対策――①」
「どうやって調べた?」
「斥候がフェイルゼイン商会の位置を特定、内部構造も一通り把握しました。話し声を聞き取ることができ、それが映像に映っていた正装の小男と同じ声だったと」
「成程、常にアルテアスの後塵を拝していたあの商家か。がはは……焦りが出たのだろうのう」
「むふぉっふぉ」
「『所詮は、内乱を食い物にして成り上がった弱小貴族に過ぎん』……そうなのですか? みなさん」
「ほ、ほんとにファウプ先生がそんなこと仰ってるんですか、エルジオ先生……」
サイファスは応えず、代わりにサイファスの恩師――ノヴェネア・ファウプがその骨ばった小さな手でサムズアップした。
シャノリアの指摘は流されたまま、会話は続く。
「そうだのう。二十年も昔のことだから、そう覚えているわけでもないが…詳しくご存じなのですかな、大老」
「むふぉっ……ふぉむふぉむ」
「『内乱で小金を稼ぎ、それを元手に戦後財政難のリシディアにつけ込んだ。長い目で物事を考えられない小さな男よ』、とのことです」
「だからその、ホントにそれ」
「がはは、見た目通りの小人ということか」
「ですが金にものを言わせて、貴族制度がなくなったことで割を食った貴族たちや、内乱が一応鳴りを潜め、表立った争いがなくなったことで食いっぱぐれた二十年前の傭兵なども抱き込んでいるのでしょう。想像以上に配下が多いのはそういう事情だと思われます。真に厄介なのはその連中、中でも――」
「致し方ないでしょうね。現政権に一切希望が持てないのだから。王族があっさりクーデターを許すような体たらくでは」
「クリブ」
口を挟んだクリブを、デーミウールが珍しく声音を低くしてたしなめる。
「そんな言い争いをしている場合ではない、とはお前の言葉だぞ」
「…………どうぞ。余計だと思われたなら無視して続ければよいでしょうに」
(感じ悪いわね、この男……)
勝手なものだ、とシャノリアは小さなため息を吐いた。
「すまんかったのぉ、がはは! 続けてくれ」
「――中でも警戒しなければならないのは、先ほども名が出た『褐色の大男』です。斥候がフェイルゼイン商会ギルドに接近した際、ノジオス・フェイルゼイン他数名と共にいるのを感知しました。ノジオスを探していて偶発的に接近してしまったので、逆感知を警戒して気付いた瞬間離れたそうなのですが……特徴は身の丈二メートルほどの長身、丸太の様に太い四肢、それでいて骨ばった筋肉質な体。そして――体中にある無数の傷と、それを隠すような包帯とバンダナ、だそうです」
「褐色、無数の傷、ムキムキ……聞いたことが無い男だねェ。やはり」
「そうですね……それにヘヴンゼル騎士団の騎士長を圧倒するような実力を持っていたのなら、国を超えて名が轟いていてもおかしくない。それなのに一切無名のままとは」
ミルクリーとバニングが所見を述べる。
相手の正体が割れれば、その人物の用いる魔術や戦術等から対策が立てられる可能性があるのだ。
「もあれ、奴が騎士長を超える――つまり、このリシディアに敵う者がいない可能性があるレベルの実力、ないし魔術を備えているかもしれない以上、しっかりと対策を立てておく必要があります。いつどこでかち合うかもわかりませんから」
「その通りだと思います。『出会ったら終わり』、では話になりません」




