「国とは人なり」
「……!?」
――無礼な、と一蹴してしまいたかった。
だが、ココウェルはグウェルエギアの者達から感じる異世界に、とてもではないが返事をする意欲を失ってしまっていた。
同じく、そのやり取りを見守るプレジア勢も肝をつぶし、絶句している。
かつての師であるミルクリー・ヴァサマンが平然とした顔をしているのを見て、シャノリアはいよいよショックを隠し切れず、眉をひそめた。
(……夢でも見てるの? 何がどうなったら王女様に対してこんなにも無礼な態度がとれるの?)
そんなシャノリアから視線を外し、ペトラは厳しい目で王宮魔術師長を見る。
〝精々自分達の罪を悔いながら死になさい〟
(……イミア・ルエリケとかいうあの魔術師長も。私達からヘヴンゼル学園を守ろうとしたときと比べて、明らかに意気が低かった)
既に癒えているはずの、イミアの風の刃に切り裂かれた頬がうずく。
ガイツが阻止しなければ本当にペトラを殺していたほど学園を、この国を守ろうと意気込み、またココウェルが王女であることを認識したのちは、へりくだり過ぎるほどにへりくだって臣従を示していた王宮魔術師長。
それが、ココウェルを守るためには――その半分ほども熱意を持っているように感じられない。
(……軽視。明らかに王女は、「何の実績も持たぬ者」として軽んじられている)
プレジア勢を除けば、この場の誰もが「初めてお目にかかる」第二王女、ココウェル・ミファ・リシディア。
在位期間の長い現国王ほど悪評はない。
しかしそれは、ココウェルが国や国民に対して「何もしていない」からである。
現国王、ケイゼン・ロド・リシディアの王位継承、つまり即位は二十四歳の時。
先代国王のラオムス・ドドル・リシディアは更に早く、即位は二十三歳だ。
無論両者ともそれまでに多大なる功績を挙げ、広く人心を得た末の即位である。
ココウェルはすでに十九歳。
その十九年間、彼女は臣下に、そして家ぐるみで交流のある貴族らに、国民に――何一つ「王たる器」を示せていない。
十九年間、何一つである。
たとえ幼少であれど、その発言には無視できない威厳と権威が宿るのが王族。
更には遠くない未来、確実に王位を継承し、国の命運を担うこととなる――リシディア家最後の一人。
それが、理由は推し量るべくもないにしろ――物心も付きに付いた十九という年齢に至るまで何もせず、何も発さず、姿さえろくに見せなかった。
国民にとって、これが王女の「無視」と映るのは無理からぬことであった。




