「異質、しかしまたも不穏」
カッチリと固めた総髪から数本の触角のような髪を垂らした、茶色のローブを着込む長方形の眼鏡の男の言葉を、王宮魔術師長イミア・ルエリケが次ぐ。
それをグウェルエギア大学府学長、デーミウールは再び笑い飛ばした。
「がははは! お前はホントそのカタさは抜けんのォ、グリフ!」
「まったくさ、あーしらは軍人でもなんでもないってのに! ただのいたいけな一般人よ!」
「み、ミルクリー先生そんなことを……」
「ミルクリーちゃんの言う通りだグリフ、ディノバーツちゃん。国の危機であろうが何だろうが、一般人たる我々がやれることなどそう多くない。そんなワシらを呼びつけて、一体何をご所望であられるのかな。お初にお目にかかる第二王女様は」
デーミウールがココウェルに笑いかける。
しかし彼女がにこやかに応じられるはずも無かった。
当然である。
デーミウールがココウェルに向ける笑顔。それが好意的態度の表れでないことは、言葉からして明らかであったからだ。
「その子どもをあやすような言動をやめなさい。デーミウール・シャッフェン」
「おやおや! 威勢だけはよろしいようですなぁ結構結構、がはは!」
「やめなさいッッ!!」
「ぬおおこわいこわい! この老いぼれは不敬罪で死刑ですかな!」
「ッ、馬鹿にするのも大概に――」
「言葉が過ぎますわよ。学長先生」
イミアの言葉にココウェルが矛を収める。
しかしデーミウールはそれさえ全く意に介さぬように笑った。
イミアの目が細まる。
「勘違いなさらぬように。いかなグウェルエギアの頭といえど、殿下の前では」
「臣従を示せと? がはは――勘違いしているのは君だな。魔術師長君」
「は?」
「そう、このグウェルエギアはリシディア最高学府だ。そこに集まるワシらはいわば、それぞれがこの国の『知』の一角をなす宝のような存在」
「随分な思い上がりですこと。成程、つまり控えるべきは殿下の方だと仰り――」
「がっはっは、バカ申すでない! 今ミルクリーちゃんが言ったろう? ワシらは君らのような軍人ではないと」
「だから殿下と対等だとでも仰りたいのでしょう? 話になりませんわ、貴方のような者を老が――」
「そこまでです魔術師長殿、学長も!」
目を苛立ちに瞬かせながら、抑えきれない様子でグリフが言い放つ。
しかし、続けてグリフはあろうことか――
「――王女殿下、あなたもです」
――その苦言を、ココウェルにも向けた。
面食らうココウェルに、プレジア勢も揃って心を同じくする。
「え――」
「もとはといえばあなたが吹っ掛けた喧嘩でしょう。話にならない、言葉遣いなんぞいちいち指摘してる場合でないのもお解りにならないので?」




