「敗因分析」
何の脈絡もなく飛んできた質問を戸惑いと共に返した悪漢など一顧だにもせず、ノジオスは続ける。
「城には既に『王壁』が展開されているッッ!! 王族リシディア家の血によって編まれた堅固で堅牢な耐物理・魔法障壁ッ! 神話の機神の一撃でも破壊できないと言われる最強防護だ! 突破できるワケなかろうがあんなモン展開されたらッ!!」
「参るよなぁホント。まさかウチのバンターでも破れないなんてなぁ? 『最強』の名折れなんじゃないのか? バンターさんよ」
マトヴェイが軽薄な笑みを向けた先。
そこには、岩の様に泰然としたまま動かない褐色の大男――バンターの姿があった。
バンターはまるで聞こえていないかのように目を閉じたまま、一切の反応を示さない。
(……もうかれこれ五時間はああしてやがる。ホントワケわかんねえ男だぜ)
「城には二、三日籠城するだけの備えは当然ある。国境で戦うヘヴンゼル本軍はその気になれば三日目には帰ってくるだろう。そして今日は何日だ? 今日が・その・二日目だすなわち??? 我々に残された時間はもう一日しかないんだよボンクラがッッ!!」
一人の悪漢が何の前触れもなくノジオスに蹴り飛ばされ、調度品の中へと突っ込んだ。
マトヴェイがやれやれと両手を広げ、黒装束二人を見る。
背の高い方が話し始めた。
「親父はもういいからさ、聞かせてくれ。お前達が得た情報を少しでも多く」
「……まず。敵勢力は間違いなく、プレジアの少数精鋭だけです」
「どうしてそう言えるんだ?」
「正門を襲撃していた一隊全員が、極彩色に光る信号弾一つで迅速に撤退していました。我々が着いたときには、交戦した一人を除いてほとんど誰の姿も見えなくなっていた。あの鮮やかな撤退、日ごろの訓練と連携の賜物としか考えられません」
「ふーん……まあそうだな。仮にプレジアとどこぞの傭兵達が手を組んでたとしても、そこまで統率のとれた動きが即席で取れるとも思えないしな」
「続けても?」
「ああ、続けろ」
「プレジアから誰が来ているか、ですが。残っていた一人だけ、面を割ることができました――アルクス兵士長ガイツ・バルトビア。あの男は彼で間違いない。事前に聞いていた情報と容姿も一致する」
「技はどうだった? お前達は一体何にしてやられた?」
「――唯一不明だった、ガイツ・バルトビアの魔装剣の能力に」
黒装束の言葉に、マトヴェイがピクリと肩眉を動かす。
「奴の魔装剣――作り手も銘も不明だったあの大剣か」




