「情報過多」
「……失礼、一個人の意見など不要でした。ともかく、今後どの作戦を採るかは斥候の報告次第ですね」
「……イフィ・ハイマーとかいう隊員が一人で出ているのでしたよね。大丈夫なのですか?」
「ハイマーの隠密能力はアルクス随一です。学園区突入の作戦立案に際し参考にした敵勢力の数や位置も、彼女を中心としたメンバーに調べてもらいました。実力は保障します」
「……期待してますわよ」
期待の籠らぬ目でイミア。
やがて彼女が他所を向き、とんがり帽子の折れたつばの向こうへ消えたその目を見て、ペトラは人知れず嘆息した。
(「偏見」はまだまだ根深そうね……さて。何なら彼女が舌を巻くくらいの情報を仕入れてきてもいいのよ。イフィ)
イフィが警らを終え、単身斥候に出たのが一時間前。
陽は天上へと昇ろうとしていた。
◆ ◆
「それでたった一人の男を仕留められず、おまけに傷までこさえてきたというのか貴様らァァァァァァ!!!」
石壁に囲まれた空間で、余裕のない小男の声が反響する。
その小さな体にばっちりフィットした黒のオーダーメイドスーツに包んだ肩を怒らせ、同じく黒いシルクハットの下で目玉をかっ開いて怒鳴り散らすのはノジオス・フェイルゼイン。
叱責を受けるのは、先にガイツ・バルトビアと交戦した三人の内、二人の黒装束である。
一人は治療に専念していた。
そんな彼らの寸劇を、部屋にいる数人の者達は漫然と眺めている。
ある者は失笑と共に、そしてまたある者は焦燥と共に。
「――わかって・いるのか分かってるのかおいィ!! ヘヴンゼル騎士団の本軍が帰ってきたらコレもう俺ッ様達は終わり・もう・ほんと・終わりなんだぞォッ!!!? 解ってるのかえェッッ!!? 俺ッ様『達』だ!! 破滅だぞ俺ッ様も、バジラノも!!!」
重力に逆らい斜め上に伸びた鼻下のヒゲをびよんびよんと震わせながらノジオス。
二人の黒装束はわずかに視線を落とし、無言を通す。
ただ嵐が去るのを待つために。
「だああぁぁァッッ!!」と叫んだノジオスがゴミ箱を蹴飛ばした。
「オイオイ親父、そう意気を上げるなって。騒いだってタイムリミットが伸びるわけじゃないだろ?」
「なァにをのうのうとマトヴェイこのドラ息子ォ!! 勝負所で必死にもなれないお前が俺ッ様に指図すなァ!!」
「余裕を忘れても脳ミソが鈍るだけよ」
肩で揺れるウェーブのかかった金髪を払い、息子のマトヴェイ・フェイルゼインが笑う。
「そんなんじゃいい責めも思いつかない。いつだってそうさ」
「どっから来とんだお前はその自信はァっ!!? で何だ、その余裕で何か妙案が思い付いたというのか、えぇ!? 何かあるなら言ってみろッ!!」
「とりあえずさ、ちゃんと聞こうよ親父。そこの傭兵崩れ共が仕入れてきた情報をさ。そこに何か情報があるかもよ」
「あるか城の情報なんぞ!! いいか!!? 俺ッ様達が今・こうして・攻めあぐねてるのはなんでだ・なんでだ? 答えてみろそこのォ!!」
「っ!? し――城を攻撃できねえから――」
「そォだァッ!!」




