「Interlude―16」
◆ ◆
「……すごいわね、マリスタ。そのクマ」
「んー……。そう?」
「ね……眠れてないの?」
「んー……そうかも。うん。そうだ」
マリスタは気だるげに目をこすり、いつものごとく机に突っ伏した。
その目の下には深めのクマが出来ており、目もどこか虚ろである。
彼女の心労の一番は、いよいよ表面化しつつある貴族と「平民」の争い……に、やはり圭が絡んでいることだった。
「最近スゴいものね。貴族と『平民』とのゴタゴタ」
「私たちも、一応『平民』ってことになるの、かな。どっちにしても、いやだな」
不安げにパールゥ。
システィーナが苦笑で応じる。
「これまでも何もなく来れたんだし、積極的に関わらなければ、これからも何も起こらないと思うわ。安心して、パールゥ」
「そうだといいけど……」
「まあ、関わらなければ、の話だけど」
「……どういう意味よ、それ」
ジロリ、とシスティーナを見るマリスタ。
しかし彼女の無言の視線に応じたのは、システィーナではなかった。
「システィーナは貴女のことを心配して言ってくれてるのですよ、マリスタ」
「あ……ナタリー?」
「おはよう、ナタリー……珍しいね。ナタリーがこの時間に来るなんて」
「家が報道関係の大手じゃ、なかなかこうして会うことも出来ないものね。今日は家での仕事、なかったの?」
「大手といっても、実権は完全に高名な貴族のどなたかサマに取られてしまいましたがね。ま、代々私の家は現場方なんで、権力なんぞどうでもいいんですよ。でも本当に久しぶりですね。お元気でしたか、皆さんっ」
「ええ。すごーく元気よ。約一名を除いてはね」
「誰のことよぉ」
「貴女のことに決まってるでしょう。マリスタ」
にっこりと、ナタリーがマリスタに笑顔を向ける。マリスタがたじろいだ。
「おはようございます、マリスタ。貴女、今日はまた随分と眠そうですねぇ。昨夜はちゃんと眠れましたか?」
「え……ええまあ。それなりに眠れましたわよ」
「無理して下手な敬語使わなくたっていいんですよ、私達は友人なんですから」
「へ、下手って……」
「ナタリーも心配なのよ、マリスタ。あなたの体調が」
紅茶を飲みながらシスティーナ。
パールゥが苦笑いしてそれに頷く。
「うぅ~」
「ウーじゃないですよ、まったく……あ。でも少しだけ安心していいですよ、マリスタ。つい今しがた、あなたの心労の一つになっていた懸案は片付きましたので。これでもう、ヤリチン糞野郎に狙われることはありませんから」
「ヤ……?」
「ナタリー。毒。毒」
「あややや、私としたことが! ティーでお口を清めておきますねっ」




