「探り合い、いまだ」
◆ ◆
食堂が解放された。
芳香の中、食器の音や話し声が誰しもの耳で背景となる。
ヘヴンゼル学園の中央にある大食堂。
暖色の照明の中、普段はカフェテリア然とした瀟洒で開放的な空間となっているのであろう大広間の中央には、今や地味な色をした武骨な長机がいくつも置かれている。
少しでも大勢が一度に食を摂れるようにとの配慮である。
厨房では数人の調理師に紛れ、不慣れな手つきで文字通り右往左往する学生の姿。
非常時となった今、食堂における食料の管理は調理師を中心に学生達も協力して行われていた。
突き合わされ並べられた長机と長椅子にひしめきあうようにして座すヘヴンゼルの学生達。
プレジアの義勇兵コースの学生達はその一角をあてがわれ、小さなパン、彩りある野菜とすり潰されたじゃがいもの入ったをスープかき込んでいる。
そんな様子を、ペトラとイミアは中庭で、ガラス張りの向こうから眺めていた。
「……食料はあとどのくらいもちますか」
「食材の仕入れが途絶えたのが二日前ですわ。ヘヴンゼルやグウェルエギアで育てられた作物もフル活用して、あと二日と見てましたが……あなた方が来てさらに厳しくなりましたわね」
「我々の合流に難色を示されたのは、こうした事情もあったのですね」
「ま、そう恨んでもいませんけれど。糧道――食材の輸送経路の要である商業区一帯を敵に占拠されている以上、いずれジリ貧になることは見えていましたし――」
「敵も。……それは重々、承知しているでしょうね」
含みのある言葉に、イミアがそのアメジストのような紫を持つ目を細めてペトラを見る。
「……だからこそ良い陽動になりうると? 浅はかですわね」
「解っています。敵が短期決戦を目論んでいるのは明白。食料が問題になることは無いでしょう」
碧眼と紫眼が、互いに品定めするように交差する。
先に口を開いたのはイミアだった。
「城を占拠する前に、国軍の本隊が王都に帰ってくれば彼らの命運は尽きる。何としてもその前に決着を付けようと思っているはずですものね」
「はい。それに我々は、既に最初の戦闘で陽動作戦を採っています。同じことを繰り返すのは下策な可能性が高い」
「……何を考えてらして? もしかして戦力を二分して、商業区と王城区を同時に奪還するおつもりですの?」
「…………」
信じられない、論外だ、と声音が告げている。ペトラは答えない。
しかし、イミアに向いたペトラの目を見れば、彼女の考えは明らかだった。
「……お生憎ですけれど、学園内に立てこもっている者の多くは学生で――」
「解っています。アルクスと共に従軍したプレジアの学生も有志を募った集まりです。ヘヴンゼルの学生らだけに過度な負担を強いることは考えていません。協力してくれる人員は多ければ多いほどよいですが。お任せします」
「まあ、聞いてみますわ。ある程度人選は進めていましたし。でもそれありきで作戦を立てるのはお門違いですわよ」
「無論です。私はプレジアの学生に関しても――できることなら、一人も死なせることなく帰してやりたいと思っていますから」
「――それは命を懸けている学生達への侮辱ではなくて?」




