「自己中心的お人好し」
――視界がぼやけると同時に、とんでもない冷たさと息のできない混乱がビージを襲った。
覚えのある息苦しさとひりつくような肌、目玉、頭皮――頭部全体の痛みに耐えかね、ふらつきに任せてもがくように腕を振り回し、
「――――ッッはァっ!!!?」
――その冷たさと痛みは、前よりいくらか早く頭部から消え去った。
ビージは片膝を着き、一瞬で乱れた呼吸を整えながら――
「冷えたか。頭」
「テん……メェっっ、」
息一つ乱さぬ涼しい顔で彼を見下ろす、術者を鋭く睨み付ける。
「――何しやがんだよ人が謝」
「必要ないと言ってるだろ謝意がホントにあるんだったら不要で人を煩わせるな! 一体何人の懺悔を見届けりゃいいんだ釈迦か何かか俺は」
「だからってここまでする必要あったか今コラ! 冷めるどころか熱するわンなことされたら!」
「……それは後学の為に覚えておく」
「引くのかよソコでっ?! つか覚えんなそんなゴーモンにしか使えねーようなムダ知識っっ、っはァ……!」
怒りと共に乱れた息を吐ききり、立ち上がる。
癪に障る話だが、直前までの大きな感情はだいぶ小さくなっていた。
俺は何をこんないけ好かない奴に喋ろうとしていたのだ。
「もう足は止めるなよ。これ以上遅れたら俺まで大目玉を喰らいかねん」
「わーってるよ!!」
急に顔を見たくなくなり、圭の少し前を肩を怒らせ歩くビージ。
ほどなくして軍議室に着き、彼と圭はあっさり分かれた。
あれ以降、会話は一つも発生しなかった。
〝ヘヴンゼルでは下手に地雷を踏まないように、事前に情報を仕入れるだけ仕入れておこうとしてる〟
(……必要なことが聞けないと分かった瞬間に黙りやがって。あいつマジで自分のことしか考えていやがらねえ――)
〝足りるもんかよ〟
「――――……」
〝途方もない数の人間をあんたの異世界に勝手に巻き込んで苦しめて、それがそんなもんで清算出来るワケがねェだろうがッッッ!!!!!〟
――感情忙しく、今度は湧き上がっていた怒りが急速にしぼんでいく。
プレジアを襲った襲撃者のトップ、アヤメ・アリスティナと戦っていたケイ・アマセが、録画されていた映像の中で言い放った一言を、ビージは唐突に思い出していた。
プレジア大魔法祭での戦いで、ビージは襲撃者に不意を突かれ気絶した。
故に映像での確認になったのだが――――その映像を最初に観たとき、あまりの似合わない発言に捏造を疑った。
多くの人間を苦しめた者への怒り。
そんなありきたりなもので、「自己中いけ好かない男」は怒号を飛ばすほどに怒り狂っていた――ように見えたのだ。
自分のことしか考えない男。
それは果たして、本当に――――ケイ・アマセを評するにふさわしい言葉か。
(…………っあーわかんねえわかんねえどうでもいい! 今は目の前のことに集中しろッ)
「遅くなりました! ビージ・バディルオン参上しました!」
「来たか。ビージ・バディルオン」
「は――はいっ! それで兵士長っ、俺――私にどんな任務が――」
「ふん縛ってある敵がいてな。情報を吐かせる」
「――はい?」
「どうせ拷問するなら、図体がデカい者が揃った方が恐怖を与えられると思ってな。一番デカいお前を呼んだ。一緒に来い」
「…………」
「ちなみに、拷問に関する知識は?」
「…………頭を凍結させてやると、いい具合に拷問になりますよ」
「……?」




