「異世界を知らぬ者」
「でもよ、そりゃ自意識過剰ってやつだぞ。誰もお前らのことなんか見てやしねーって、プレジアなんかに入った時点でよ」
「でもそうよねー。実際ビージ君達って、なんでプレジアなんかに入ったの? 家庭教師とか家柄上げて再挑戦とか、あんなとこ以外にいくらでも道あったと思うけど」
「…………」
話していたく、ない。
彼らと一緒にいるとビージは、己の不遇を――貴族としての名の小ささを、嫌でも意識させられるから。
〝『平民』風情と貴族じゃ、天と地ほどの格の差がある!! テメェが勝てる道理は万にひとつもねぇんだからな!〟
(……だからこそか。俺が「貴族」ってモノに執着してたのは)
ヘヴンゼル学園。
二十年前までは貴族のみが通える、特権階級の者だけに開かれた学校として存在した学び舎。
入学するだけで、王城における仕官の道――文官等の役人はもちろん、騎士や王宮魔術師への道も限りなく近くなると言われた花形中の花形。
逆に言えば、大貴族や王族に人脈を持たない弱小貴族にとっては唯一の「成り上がるための王道」であった。
しかし、「無限の内乱」によって国軍の九割が壊滅。
人材不足にあえいだ王国は、当時の「平民」格の者達からも広く徴兵することを決定。
現在も続く、身分の関係ない定期的な新兵募集、更にこれまで貴族しか通えなかったヘヴンゼル学園に「平民」の入学枠を新たに制定。
並行した貴族制度の解体も相まって、ヘヴンゼル学園は貴族も「平民」も無い、高等教育を行う普通学校となった。
というのが、表向きの話。
「ま、理由なんざ大体想像つくけどよ。おーかた大貴族に近付いとけばおこぼれに預かれるとか思ってたんだろ。テインツの奴なんかウケるほど近付きたがってたもんなぁ」
「あっ、もしかしてビージ君て、プロぺラのフウキイインだったりした? ねえ、そうなんじゃない? 当たり?」
「……ああ、そうだ」
「きゃはっ、うっそーほんと? ウケる!」
「はははっ、そっかそっか。お前たちなりに大貴族に近付く努力はしてたわけだ、涙ぐましいな――でもお前らも報われねえなホント。俺らを切ってまで、やっとの思いで近付けたと思った大貴族が――――世界的な大犯罪を行ったクズ共だったなんてよ」
「!!」
拳に力がこもる。
胃を押しつぶしていたものが一気に体を駆け上がり、想像以上の熱さでもって頭の先から爆発しようとする。
ビージはそれを、固く重い目蓋で押さえつけるように蓋をした。
「ま、焦るこたないぜビージ。なんでか知らねえがプレジアには――まだ『替え』もいることだしよ」




