「暗躍」
◆ ◆
「じゃあガイツ、あなたのそのローブは」
「そうだ。敵の蹴りがかすった時に破られた」
ガイツが右肩に手を添えて言う。
彼のローブは右肩から裂けていた。
「かすっただけでこれだ。まともに当たれば防ぎきれんかもしれん」
「ふむ……だが、今の話で決まりだな」
「ああ――話した通りです、魔術師長殿」
役目を終えたローブを脱ぎ、ノースリーブの黒いアンダーアーマーにハーネスバッグ、黒のカーゴパンツという出で立ちになったガイツが遠い目で言う。
「四肢に装着できるほど小型で、ああも高性能な加速装置。一時的にだが俺の風の斬撃や手榴弾を防いでしまう防御力を持つ障壁を展開する軽鎧。それほどに精密な魔装技術を持つのは、魔装を軍事産業に特化させたバジラノしか考えられません。このクーデターの背後でバジラノが糸を引いているのは間違いないと思われます」
「……今後は、敵がバジラノの魔装兵器を所持している可能性を考えて立ち回らなければならない、ということですわね。厄介なこと、本当に」
「ガイツ。もしかすると、その黒装束三人組自身が……」
「ああ。バジラノの手の者である可能性は十分ある……そういう意味では扱いに注意するべきかもしれません。今後有力な材料となり得ます」
「頭に留めておきましょう。ですが、」
イミアが小首を傾げる。
つられてとんがり帽子も揺れた。
「バジラノの姿はこれだけはっきり見えているというのに。アッカス帝国に関しては尻尾も見せませんわね」
「……そうですね。現バジラノ建国の経緯や、過去二度のアッカス・バジラノによるリシディア侵攻を考えても、バジラノが単独で動いているとは考えない方がよいと思います」
「それも含め、情報を引き出せるだけ引き出すしかないでしょう――――ともかく、魔術師長殿」
ガイツがペトラと同じく、改めてイミアに目を据える。
何を言うかを察したか、イミアが冷めた目で見返した。
「これで、我々は信ずるに足るでしょうか。少なくともこの国家の危機を……共に闘い、乗り越える同志として」
「それを判断するのは私ではありませんわ」
にべもない返答。
ガイツはしばしイミアを見つめていたが、やがて小さく鼻から息を吐き、いまやリシディア王国軍を統括する立場になったらしいココウェル・ミファ・リシディア王女を見た。
ガイツの視線の意味を察し、ココウェルはイミアを見た。
「……感謝します、魔術師長。アルクスの方々。我々リシディア王国軍は、あなた方の手を借りて王城を取り戻します」
「御意のままに!」
ペトラの礼にガイツが続く。
その後頭部を見つめるイミアの冷たい目を見たものは、小さな軍議室には誰もいなかった。




