「ガイツVS3つの仮面――③」
『!!』
土煙の中から聞こえる鉄の音。
急速に接近する風切り音。
音の正体に気付いた黒装束が空中で体勢を変え脚部の加速装置を用い真反対に飛び退こうとするが――
「遅い」
――兵装の盾が血に染まる。
ガイツの求めに応じ回転し飛来した翼の大剣は、黒装束の左脇腹から鮮血を迸らせた。
(――浅いか)
血と共に宙を舞う折れた鋼刃。
ガイツは敵の手に斬撃を逸らしたと見られる短刀を見て取る。
かざしていた左腕を振り下ろして勢いそのまま大剣の柄をつかみ、裂傷に空で怯む黒装束を両断する一撃を左の黒装束がかいくぐる。
「!」
迅速な転身。
攻撃を止めた左の黒装束はあっという間に傷を負った黒装束を抱え、既に剣身の届かぬ空の彼方。
脚部には青白い噴流が光る。
だが、
「――――」
その彼方さえ、風の刃の射程圏。
風が鳴る。煙が巻き取られる。
黒装束たちの消えた真正面の土煙に向け、巨躯の兵士長は小さな台風の如き風を収束させた大剣を棒きれの様に軽く振り上げ、
「閃風陣」
豪風。
羽搏かせる如く、空を両断した。
風の一閃が大地を飲み込み、噛み砕く。
放たれた巨大な風の斬撃は黒装束の逃げた土煙を貫くだけでなく――ガイツが前方に感知していた、煙の向こうの黒装束にさえ届き、蹂躙する。
先の億倍の砂嵐が正門周辺を飲み込む。
建物の倒壊する音がけたたましく響き、水面への投石で生じる王冠の如く、砂埃の爆発が連鎖的に生じている。
大剣を肩に担ぎ、それら煙霧の幕を魔法のひと吹きで消し飛ばそうと右手をかかげ――ガイツはおもむろにその手を下ろした。
敵の気配が消えたのだ。
(退いたか……それとも隠れているのか)
ガイツは前者と見た。
こうも完璧に気配を消して近付けるのなら最初からそうすればよい話。
そう油断させて奇襲する作戦だったとしても、今のように勘付かれる状況になってから使うのは下策も下策。
そして、恐らくガイツ以外の人間が退却しているのを彼らも見て取った。
学園区奪還組が動いているのであれば、それももう伝わる頃合い。
(……手傷も負わせた。これ以上は無用な消耗だな)
翼の剣身がガイツの肩で消え、大剣は三十センチほどの杖に成り下がる。
杖を腰元にしまい込み、彼もは退路へと引き下がっていった。




