「Interlude―15」
「では、後はよろしくお願いします。風紀委員さん」
「おっ、おい離せ、離せッッ!! テメェコーミレイ、こんなことして…………覚えてろ、覚えてろよお前ェッ!!」
「あやー、獣畜生の遠吠えが聞こえますねぇ、良く吠えるものですね~」
「コーミレイ」
数人の風紀委員に羽交い絞めにして連れていかれるマトヴェイと入れ替わるようにして、生真面目そうなグレーローブの風紀委員がナタリーの前に立つ。
「やり方はともかく、今回は助かった。フェイルゼインの悪行には、我々もほとほと手を焼いていたんだ。奴の行為は学生の域を超えていた。近々、フェイルゼイン家そのものに捜査の手が及ぶことになると思う」
「そうですか。まぁ、私は私が気に食わない輩を殺すだけですから。今回限りの協力と言うことで、どうぞお構いなく」
「そうか。……これを機に、風紀委員会内の風紀をこそ正すべきかもしれないと、警鐘を鳴らしておくとするよ。ありがとう」
グレーローブを翻し、構成員を引き連れて去っていく男子生徒。
ナタリーはニコニコとその集団を見送ると、ニット帽を目深にかぶり直してため息を吐き、大きめのウェストポーチから小さなノートを取り出し、開くと――――「社会的デスノート」と銘打たれた項目の中の、「フェイルゼイン」という名前に大きく斜線を引いた。
目的を終えた彼女の目は自然、現在ナタリーの中で最も大きな「懸念」となっている少年の名前に向く。
そこにあった名は、教室でナタリーの隣の席に座っている男子生徒――ケイ・アマセ。
「……はぁ。全く難儀な話ですね。こんな男に、関わらなければいいだけの話だというのに」
ナタリーの幼馴染であるマリスタ・アルテアスは、ケイ・アマセという少年に関わり始めてからというもの、明らかに行動がおかしくなっていた。
誰に対しても積極的にかかわりに行く姿勢は、昔から持っていた。だが、自分にとって悪いことが起こっても関わり抜く、などという姿勢は、少なくともナタリーは一度も見たことがない。
マリスタは先日、風紀委員会に三時間も拘束されていたのである。
そして、それが彼女の被る「悪いこと」のほんの一角でしかないというのが、ナタリーが最も頭を悩ませているところである。
(……会ったらたっぷり教えてあげますよ、マリスタ。あんな得体の知れない男に、二度と関わらない方がいいと)
ナタリーは羽ペンを使い、ノートにある圭の名前を何度も丸で囲んでノートを閉じ、足早に食堂へと急いだ。
この時間なら、マリスタ達は必ず食堂で駄弁っているはずだから。




