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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私の夢の話〜彼女の体を全部集めて〜

作者: kano


 私の夢の話をしよう。夢の内容についての話。

 私はそんなに夢を見るほうじゃないのだけれど、昨日見た衝撃的な内容の夢は、きっと忘れないだろう。


 それはつい昨日のことだ。私はいつものように仕事を終えて、原付にまたがり帰路に着いた。私の仕事というのはいわゆる飲食店の定員というやつで、その日も酔っ払いに散々絡まれて疲れ切っていた。しかし、翌日は友人と遊びに行く約束をしていたので、気分は晴れやかだった。明日は仕事が休み。帰って眠ればすぐに朝が来る。大好きな優子とショッピングだ。


 私は普段仕事が忙しいせいでなかなか休みが取れない。勤めているのは居酒屋なので、必然的に夜遅くなる勤務だ。そのぶん朝が遅いかというとそうでもなく、朝は仕込みをしなければならないので昼前には出勤する。そして家路につくのは日が変わって数時間後だ。明らかに拘束時間がおかしい。そして定休日は週一回。

 

 でもまぁ、飲食店というのはどこもそんなものだろうと思っている。むしろ週1日でも休みがあるだけでありがたいと思わなければやってられない。


 そうだ、夢の話をしようとしていたんだった。


 要するに何が言いたいかっていうと、私はとても疲れていたということ。とにかく、その日は家に帰ってすぐにお風呂に入り、次の日に着る服を用意してベッドに入った。


 ここで私の友人、優子のことについて少し触れたい。彼女は私のたった一人の友達だ。親友だ。とても優しい子で、学生の頃は教室ていつも一人ぼっちの私に唯一話しかけてくれた子だった。家も近く、私たちは毎日のように一緒に遊んだ。彼女は優しいだけでなく、頭もいいし、気もきくし、おまけに可愛い。話も面白い。私には彼女だけだったが、彼女には他に友人がたくさんいた。それでも構わない。私は彼女が大好きだ。


 元来、私は人と話すのが苦手だった。ならなぜ今、飲食店で接客業などやっているのかと問われれば、他にできることがなかったからだ。私は勉強もできないし、パソコンもできない、資格もない、おまけに不器用だ。極め付けに人見知り、コミュ障。こんな私をまともな会社は雇ってくれるはずもなく、万年人手不足の今の居酒屋だけが、たいした面接もなくすんなり雇ってくれた。もちろん、愛想笑いの一つもできない私は苦労した。初めは周りの人々も、「もっと笑顔で」「もっと愛想よく!」と注意してきたものだが、いくらいってもできないとなると、それも疲れたのか最近は全く言ってこなくなった。愛想をつかされたのだ。あいつには何を言っても無駄だと。


 はっきり言って私は仕事ができない。注文を取って持っていくだけしか能がない人間だ。それでも解雇せずにいてくれる店長には感謝しているのだ。日に日に多くなる小言も、正直にいえば辛いけれど、それは私がいたらないせいだ。サーバーといえども、仕込みの時間には野菜や肉の下ごしらえをしなければならない。たとえ壊滅的に不器用でも、言い訳にはならない。人より時間がかかるから、誰よりも早く出勤してやらなければ。同じ給料をもらっていて、人より仕事量が少ないのでは余計に反感を買う。


 とにかく、私という人間は、そんなどうしようもなく使えない人間なのである。それでも、優子は他の子達と変わりなく、優しく私に接してくれる。それが最初は同情とか、哀れみとか優越感とか、そういうものからくるものだと思っていたけれど、長年彼女と付き合ううちに、それが偽物の優しさでないことを私は理解した。生まれながらの善人。それが優子だ。そんな人間がいるなんて、彼女に会うまで知らなかった。


 最近、仕事のせいで優子とあまり会えていなかった。彼女の仕事は普通に土日が休みで、私の仕事の定休日は木曜日だ。彼女は私と会うために、木曜日にわざわざ有給を取ってくれたのだ。明日は優子とどこでランチをしようか?何を買おうか? そんなことを考えながら眠りについた。






 私は教室の中に立っていた。目の前にはたくさんの机が綺麗に整列している。一番前には大きな緑色の黒板。私は教室の一番後ろ、廊下に続く扉の前に立っていた。


 やけにぼんやりとする頭。その時はそれが夢だなんて思わなかった。私は明晰夢を見たことがない。明晰夢とは夢の中でこれは夢だとわかることをいうらしいが、夢の中の私はいつもそれが現実だと疑いもしない。突拍子もない出来事が起こっても平然としている。夢の中では、その時その時で常識が変わるのだ。


 突然扉が音を立てて開いた。驚いて私はそちらを見る。そこには見知った男性が立っていた。


「あぁ、〇〇さん」


 私は言った。ちなみに、夢から覚めて思ったことだが、この人物は現実には存在しない。夢の中で、私は時折こんな風に架空の人物ととても仲が良かったりする。この時私は”〇〇さん”ではなく、しっかり名前を呼んでいるつもりだが、目が覚めてからはその名前も、その人の顔も、どうしても思い出せない。とても残念だ。でもまぁ、夢だし仕方がないか。とにかく、この〇〇さんは現実には存在しない。第一、現実で私と仲がいいのは優子だけなのだから。


 〇〇さんはにこやかに私に何かを差し出した。白くて長い棒のようなものだった。私はそれを受け取った。感触は思ったより柔らかかった。


「・・・・・・?」


 私はそれを顔に近づけてよく見た。〇〇さんの手にある時のそれは、なんだかわからなかったが、私の手に移ったそれに意識を向けると、それは人の腕であることがわかった。右手だ。肘から少し上の部分の切断面を見て見ると、筋肉と骨と、ちぎれた血管が見えた。


 不思議とこの時の私は全く冷静で、人の腕を手にしているというのに驚くこともなく、ただ、〇〇さんが私になぜ人の腕なんかを渡すのかと疑問に思っていた。その手から目を離し、再び〇〇さんを見ようと顔を上げると、そこにはもう彼の姿はなかった。


 私はもう一度その腕に視線を落とした。白い腕。おまけに冷たい。明らかに切り落とされてから時間が経ったものだと、目が覚めてからはわかったのだが、夢の中の私はそんなこと考えもつかずに、なぜか、


『全部集めないと』


 と思った。集めてどうするのか、なぜそんなことをしなければならないと考えたのかは全くの謎だが、とにかく夢の中の私はその腕の持ち主の体を全部集めないといけないと思った。この時点で、この腕は体から単体で切り離されたわけではなく、体はバラバラにされているとなぜかわかっていたのである。夢というのは不思議だ。しかし、この腕が誰のものかは、この時の私はわかっていなかった。


 私は謎の使命感に押され、扉を開けて廊下に出た。知らない廊下だった。というのは目が覚めてから気づいた。教室の中は、小学校の教室だったのだ。私の6年間を過ごした小学校。机は子供用の大きさで、カーテンの色はベージュ。中学校のカーテンは緑だったのだ。扉も、小学校は出来たばかりだったのでスタイリッシュな形で、材質はなんだかわからないけれどとても軽く、動かしやすかったのに対して、中学校は木製でよく引っかかってしまって開け閉めがしづらかったことをよく覚えている。だから夢の中で私がいたのは小学校の教室たっだのだが、廊下は見たこともないところだった。おそらく覚えてはいなくとも、ドラマなんかで見る学校の廊下など、潜在的なものが無意識に出現したのだろうとは思う。


 その初めて見るような廊下を、私は迷うことなく進む。適当に別の教室の扉を開けた。そこは先ほどの教室と同じ形で、けれどもさっきの教室よりも机のサイズが少し大きかったので、上級生の教室だったのかもしれない。それはこの際どうでもいいのだけれど。


 教室の真ん中の机の上に、足首が置かれていた。私は机達を避けながらそれに近づき、手に取った。靴も靴下も履いていない、裸足の左足。しかし、その足は華やかだった。何が、かというと、爪が。淡い紫の紫陽花柄。それは今現在、私の足の爪にも同じ柄が描かれている。


 私は自身の足を見た。足はしっかりと両方あった。いつも履いている、スニーカーの中に、ちゃんと収まっている。同じく腕もちゃんとついている。この足は私のものではない。第一、この手も足も、私のものにしては細すぎる。形もいい。私の手の指も足の指も、ズングリと短く丸い。足の爪は巻き込んでいて、このペディキュアをしたネイルサロンでも、店員さんがやりづらそうだったことをよく覚えている。私は、私の隣で同じ施術を受ける優子の足を見ながら、羨ましいと思ったものだ。


「優子・・・・・・?」


 明日、私と優子は1ヶ月ぶりに遊びにいく。先月は軽く買い物をして、ランチをして、その後、優子の行きつけのネイルサロンに二人で行った。彼女は大きな企業の受付をしていて、身だしなみに気を使っている。もちろん爪の先までも。しかし、仕事柄そんなに華やかな爪にするわけにもいかないので、手の爪はいつも淡いピンクと白のフレンチネイルだった。それではつまらないからと、その日は私を連れて行き、一緒にペディキュアをしようということになったのだ。足の爪ならば、靴を履いているため見えないので、どんなに派手にしようと構わない。外からは見えないが、そこは自己満足なのだと言われた。せっかくだからお揃いにしようと言われ、私たちが選んだのはこの紫陽花柄だった。季節は12月だ。紫陽花なんて時期外れもいいところだが、彼女は私が紫陽花好きであることを覚えていた。あれよあれよという間に施術が終わり、私たちの足の爪には見事な紫陽花が咲いていた。


 それが、先月のことだ。手にした足首を見ると、爪の生え際からは柄のついていない爪がのぞいている。1ヶ月たって爪が伸びたのだ。私の足も同じことになっている。足の爪は手の爪よりも伸びるのが遅いが、どれくらいの頻度でやり直さなければならないのだろう?少しでも伸びたら落としてやり直す?でも、綺麗だしもったいないな。どうせ自分しか見ないのだから、不格好になっても取らずに残しておいてもいいのかな、なんて考えていた。


 ()()()|、()()()|、()()


 そう認識した途端、私は動き出した。腕と足首を抱え、走り出す。


『早く、早く全部集めなければ、()()()()()()()()


 何が、とお思いだろうか?夢から覚めた今、なぜあの時そんなことを思ったのか私にもわからない。ただ言えることは、それが夢だったからだ。夢に理屈は通用しない。


 とにかく、私は焦り出した。彼女の体を早く全部集めなければ、彼女が死んでしまうと思ったのだ。普通に考えて、体がバラバラな時点で死んでいるのは確実なのだが、夢の中の私はまだ間に合うと思っていた。私は廊下を駆け抜けて、いろいろな教室に飛び込み、太もも、上半身、下半身、左腕、右足首、上腕・・・・と次々と集めて行った。上半身を拾ったところで、一人で抱えきれなくなったので、最初の教室に戻り、黒板の前にある教卓にひとまず固めて置いた。


 そこでまたおかしな話なのだけれど、私はその時、仕事着を着ていた。居酒屋の黒いTシャツだ。抱えた体のパーツを落とさないようにと自分の胸元を見たときにそれに気づき、そういえば、私は通勤途中だったと思い出す(私は家からTシャツを着た状態で、上にパーカーを羽織って出勤する)。私は慌てて職場に電話を入れた。「すみません、遅刻します」と。私はさらに焦り出す。早く終わらせて、仕事に行かなければならない。


 普通に考えて(この時点で普通からはとうにかけ離れてしまっているが)、友人の命と仕事では、友人の命を優先する。私だって、現実では何を差し置いてでも優子を優先する。しかし、ここは夢の中。なぜか私は、しきりに「仕事に行かなければ」と思っていた。


 そのあとも、私は彼女の体を集め続けた。何より大事な優子。彼女の体。早く全部繋いで生き返らせてあげなければ。・・・でも、仕事にも早く行かなければ。やりかけの仕込みがあるのだ。今日のオープンまでにやらなければ、また店長に叱られる。ただでさえも不器用なのだ。人より時間がかかるのだ。あぁ、でも、彼女が先だ。優子の方が大事なのだ。私は探索の合間に、時折職場に連絡をいれた。「あと、30分」「すみません、1時間」「やっぱり、2時間遅れます」


 私は教卓の前に立った。


「・・・・・・たりない」


 首が、無い。

 首だけがどうしても見つからない。どこにある? なんで無いの? なんで? もっとよく、探さないと。


 私はポケットからスマホを取り出した。時刻はいつも出勤する時間の5時間後を指していた。オープンまで1時間しか無い。どうしたって間に合わない。私は再び職場に電話をした。「すみません、今日、休みます」


 私は教室を出た。全ての階のすべての教室。別棟の特別教室も全て探した。いったいどこにあるの? 優子の首!


 私は走っていた。ただがむしゃらに走っていた。教室にないなら裏庭だろうか?運動場だろうか?部室棟はまだ探していないな・・・。そうだ、部室棟だ。


 なぜかそこだと思った。ちなみに小学校に部室棟は存在しない。私がたどり着いたのは高校の部室棟だった。2階の一番端から2つ目の扉。そこが私の所属する部の部室だった。


 私は泣いていた。目からはとめどなく水があふれていた。視界が滲んでいる。ただただ、私は焦っていた。早く早く! 優子が死んじゃう・・・・・・!


 あふれた涙を拭いもせず、2階へ上がる階段に足をかけた。あと数段で登り切る、その時、私は足を滑らせた。視界が廻転する。


「あっ・・・・・・!」






 転落した衝撃はなかった。

 なぜなら、そこは自室のベッドの上だった。下にすら落ちてはいない。夢だったのだ。私はほっと胸をなでおろした。私は部室棟の階段から落ちてはいない。それは夢だった。


 ・・・あれ、何か忘れていないか?


 私は焦った。なぜこんなに焦っているのかわからない。それが一層焦りに拍車をかける。そのとき、自室の扉が開いた。


「華乃〜? どうしたの? 寝坊? 待ち合わせに来ないから、おばさんに入れてもらったよ」


 優子だ。心配そうな顔をして、私の部屋の入り口から顔だけを出している


 『・・・・見つけた・・・!』


 私はベッドから飛び起きると、彼女に掴みかかった。驚愕の表情を浮かべ、彼女が私の下敷きになる。私は優子に馬乗りになった状態で、床に手を這わせた。タイミングよく、そこにはボールペンが転がっており、私はそれを握りしめ、勝利のガッツポーズのように振り上げながら言った。


「見つけた!優子の・・・・・・首!」


 勢いよく、私はそれを振り下ろした。






 これが、昨日見た私の夢の話。・・・あれ?違うな。夢なのは途中までなんだ。最後は、そう、()()()()()()()。たぶん。そう。


 えっと、つまりね、優子は死んじゃったんだ。そう、死んじゃったの。・・・私に殺されちゃったんだよ。あれ?でも、私は優子を助けようとして、体を全部集めたんだよ。そう、全部。首もね。


 ・・・だったらおかしいよね。全部集めたんだから、優子が死んじゃうのはおかしいよね。生き返るはずだよ。だって全部集めたんだから。おかしいな?


 ・・・いや、違う。おかしくない。体がバラバラになって、生き返るはずがない。なんで、そんなこと思ったんだっけ? あ、そうだ、夢だからだ。


 そう、私は夢を見ていたの。あれ、でも、なんで優子は死んじゃったの?・・・いや、だから、私が殺し・・・


 あれ?あれ?あれ?


 私は優子を助けたんじゃなかったっけ?あれ?


 ・・・とにかく、優子はもういないんだって。なんでだろう? お母さんが泣いていた。警察の人とか、色々来て、私はここに入れられた。ここは・・・病院?白い部屋だ。


 優子を探しに行かないと。


 私はその部屋を出た。そこは白い廊下だった。ふと、昨日の夢の光景を思い出す。学校の廊下は、コンクリート打ちっぱなしで寒々としていたけれど、ここの廊下はなんだか居心地がいいな。病院だからかな?病院なのかな?なんで?なんで病院?


 窓が開いている。遥か下には、花壇が見えた。遠すぎて、なんの花かはわからないけれど、この冬の最中、咲いているあの花はなんて名前だろうか?

 窓からは、爽やかな風が吹き込んでいる。ちょっぴり風は冷たいけれど、よく晴れた空が見える。


 優子はもういないんだって。


 なら、私が生きている意味ってなんだろう?・・・え、意味なくない?


 大好きなんだ。大好きだよ優子。あなたのいない世界は、耐えられないよ。


 ごめんね優子、大好きだよ。



 私は窓枠を、乗り越えた。



 

これは私の夢の話です。ちなみにノンフィクション。


 え?いやいや、私は人を殺してなんかいませんよ。現実では、ね。

 どこからどこまでが夢の話かって? 






 全部、ですよ。

 夢の中の私って、実在しない人間と異様に仲が良かったりするんです。顔も名前も覚えていない時が多いですが、たまに名前だけははっきり覚えていたりするんですよね。自分の職業も、生い立ちも、全部すり替わって。ただ、夢の中では、”自分”として存在しているのです。


 夢の中で夢を見た、私の夢の話でした。

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