詩花 夜空に舞散らない花
夜の静寂が今日はかき消されて
鳴り響く祭りばやし
普段とは違う夜の風景
少し赤みがさした頬は
周りの熱に当てられたのか
普段着なれない
浴衣姿が恥ずかしいのか
2人は黙ってただ歩く
気恥ずかしさと
はぐれないように
握った手を離さないのに必死で
握った手は汗ばんで
じっとりとしてるけど
伝わる熱の熱さが
いつもと違った
離したくない
離れたくない
普段とは違う夜のデート
カラコロと
下駄の音が耳に響く
いつもとは違う結い上げた髪に
汗が伝ううなじに
この時期しか見れない浴衣に
鼓動は速く
頭の中は話すタイミングを伺っては
人混みに邪魔されて
どこかもどかしい間が続く
だけど
そんなのは言い訳で
ただ君にみとれて
話す内容も
何も考えられないだけ
履きなれない下駄で
人混みの歩きにくさが増して
着なれない浴衣だから
チョコチョコと彼に手を引かれて
ただ付いていく
付いていくのに必死で
喧騒で声がよく聞こえなくて
会話の間が持たない
彼はチラチラと私の様子を伺って
気遣うようにギュッと
握る手に力を込めてくれる
離れたくない
夢のような
この夜の時間は特別だから
祭りばやしが鳴りを潜めて
花火のアナウンスが空に広がる
2人は頷いて
目指した
秘密の場所へ
花火絶景スポットへ
夜空に花が咲いては散って
夜空が彩られては舞っていく
綺麗だね
そうだね
さっきまでとは
違って会話を続けようとは思わなくて
ただ自然に
溢れるままに
言葉は紡がれる
言葉が続かなくても
花火の音が心地よく響いた
ねぇ
なに?
似合う?
袖を握って両腕を少しだけ
恥ずかしそうに伸ばして
はにかんだ笑顔を君は浮かべる
花火の光が淡く君を照らして
さっきまでとは
また違う君を見せてくれる
夜空に舞わない花火が
目の前に自分の為だけに
咲いてくれてる
今まで浴衣の感想も何も
恥ずかしくて
何と言ったら良いかわからなくて
言えてなかったけど
花火の音に後押しされるように
自然に言葉にできた
とっても綺麗だよ
よく似合ってる
ありがと
そのまま照れ笑いを浮かべて
俯く彼女を
そっと抱き締めて
顔をそっと持ち上げる
ほら
花火はまだ続いてるよ
見つめる潤んだ瞳に花火が映される
うん
けれどその瞳はそっと閉じられていく
近づいていく熱に
香りに
白い肌に
唇に
全部を脳内に閉じ込めるように
目を閉じて
君の熱に自分の熱を重ねた