冬の足音
落ち葉を踏む音で目が覚めた。
私は最小限の灯りが点くように手持ちのランプを調整して、音の正体を見極めようと扉に向かった。
つい先日、隣の村で渡り熊の一団を見かけたという話を聞いていた。
まさか、こんな人里まで降りてはきまいと思ったが、好奇心にかられてこっそりと様子を見ることにした。
月のない冬の空はかえって星の瞬きが強く感じられるものだが、あいにく雲が覆い尽くしており、遠くは常闇に包まれていた。
自身の瞳より明るいものは、このランプより他になく、先ほどの物音も風のいたずらに違いないと思えた。
厚手の寝間着にさらに防寒着を羽織って、扉を開けた。
木々の呼吸で空気が濃いようで、息が苦しい。
震えがおさまるのを待って、月明かりのない夜の庭に出てみた。
手製の木のベンチはしっとりと濡れていたが、凍るほど寒くはない。
目が慣れてくると、不思議な事に今まで感じていなかった夜の獣達の気配が感じられた。
赤茶色の小さなトカゲや、狐とも狸ともつかない生き物。
異様に首の細いフクロウや、化け物じみた巨大なカラス。
ガラスのように透明な羽を持つ虫の群れ。
あっという間に、生き物の気配に満ち溢れていく。
期待していた渡り熊達の行進はなかったが、夜の生き物達の歓迎に私は満足し、部屋に戻ることにした。
ランプを消しても、足元が見えるほど、私は夜に溶け込んでいた。
ガサッ、ガサッ。
部屋に戻ると、また一定のリズムで、落ち葉を踏み鳴らす音が聞こえてきた。
だんだんと近付いて、やがて遠ざかっていく足音に耳を澄ましているうちに私は眠りに落ちてしまった。
翌朝、今年初めての雪が降り、木製のベンチには誰かが腰を下ろしたような跡が残っていたが、なぜか渡り熊達の足跡は見当たらなかった。