1、かくれんぼの鬼
改訂前の「マボロシカレシ」をお気に入り登録等していてくださった方、大変ご迷惑おかけいたします。必死で試みたのですがうまくまとまらず、従来の「ビョーキえっち大学編」の形で掲載することにしました。
誤字等を見直しながら、週1か2くらいで更新しようと思います。
もういいかい。
まあだだよ。
来る。 来る。
鬼が来る。
きしむ階段を登って、この部屋を目指して来る。
ふっ、ふっ、ふっ。
荒い息を吐く音。
鬼の怒りと期待とが、呼気に混じって発散される。
天井裏の暗がりの中、あたしは柱にしがみつく。
流れ出る心臓の音を、デリートする方法はないだろうか。
もしもの時の覚悟は、なかなか決まらない。
ほこりだらけの天井板が、あたしの足元に連なっている。
たった一箇所、ずらして隙間が開けてある。
そこから漏れる部屋の明かり。
息を詰めて目を凝らし、小さな光源を見つめる。
あたしの部屋のピンクのカーペットが見えている。
勉強机わきのスツールを蹴り倒して、鬼が入って来た。
天井に届きそうに大きな体。
右手に竹刀を持っている。
酒臭い息に、部屋の空気が淀む。
鬼が部屋の中を見回す。
あたしがいないことは、一目見ればわかる。
もう昔から何千回も、鬼とあたしはこの家でかくれんぼをやって来たのだ。
お互いの手の内は、バレバレだ。
子供の頃は体が小さかったから、どんな隙間にでも入れた。
今はこんなに大きくなって、隠れる場所は限られている。
その分、悪知恵で対抗するしかない。
ベランダのガラス戸に、鬼が駆け寄る。
カモフラージュ用に、あたしが開けておいたのだ。
ご丁寧に、電気コードを一本、外へ垂らしてある。
さあ、庭へ探しに行っておいでよ!
鬼が駆け出して行った後、あたしは苦労して天井裏から降りる。
押入れのクローゼットを出入り口にしてある。
隠してあった荷物をつかんで、家を飛び出す。
鬼とハチ合わないように、裏口から用心深く出た。
ああ、また、泊めてくれる友達を探さなきゃ。
「アヤキ!」
後ろから怒号が襲ってきた。
門扉を開く時に、音を立ててしまったのだ。
背後から首を羽交い絞めにされた。
そのまま、勝手口に引きずり込まれる。
「また逃げる気か」
「お兄ちゃん、勘弁してっ」
「外泊ばっかりしやがって!」
アガリガマチの冷たい床に、仰向けに倒された。
「夕べ、どこで誰と、何してた!」
冷たい掌が、いきなり服の中にもぐりこんで来る。
あんまり抵抗すると、またひどく殴られる。
入院中の母の二の舞はイヤだ。
でも、おざなりの抵抗はかえって欲望をあおる。
またボタンを引きちぎられた。
だからって、言いなりになったら、その気があったと言われるに決まってるんだ。
オマエが誘ったと罵倒されるんだ。
どうすればいいかわかんない。
あたしに出来るのは、思いっきり大声で泣くことくらいだ。
3年前、れんさんと別れた時に、決心したのに。
お兄ちゃんと二度とそんな関係になるまいって。
れんさんがいなくてひとりになっても、絶対に言いなりにならずに頑張る、意識だって失わずに逃げ延びて見せるんだって。
兄妹でえっちしない。
たったそれだけのこと、世間じゃ当たり前のこと。
そんな簡単なことがどうして、この人にはできないんだろう。
そして、あたし。
なんでこんな乱暴なえっちで、体が反応してしまうんだろう。
泣き叫ぶのを、慌てて止めた。
声が甘ったるくなって来ている。
こんなんじゃ逆効果だ。 あおってる様なものだ。
黙ってしまったあたしの体に、勝ち誇った鬼の長身が重なる。
ビョーキ。
病が、鬼の指先から注ぎ込まれる。
あたしの敏感な部分を探り当てて、うずき始めた子宮への近道をつなぐ。
脳から沁み込んで、血管の中を駆け巡る。
この快感は、屈辱の感覚。
鬼にうつされた、あたしの重病。
鬼は馬鹿だから、それが愛だと信じている。
あたしの呼吸が乱れること、唇から声が漏れること。
それが回答だと思い込んでる。
ねえ、お兄ちゃん。 掛け算を知ってる?
ゼロに何を掛けても、ゼロにしかならないのを知ってる?
気付いてよ。
ビョーキのえっちをどんなに重ねても、答えはゼロなんだよ!