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最終話

 それは異様な光景だった。

 様々なコスチュームを来た美女、美少女たちが織りなす陽気なパレード。

 明るく陽気な音楽が奏でられ、花びらが舞う。

 しかし彼女たちは全てゾンビであった。

 

 その中心にひとりの男がいた。

 

 筋骨隆々の爽やかなスポーツマンタイプ。

 白い歯がキラリと光る水も滴る良い男。

 着ていたTシャツが筋肉ではち切れそうになっている。

 麦わら帽子がよく似合っていた。


「やぁ!」


 にこやかに笑いながら男が言った。


「お前が、ネクロマンサーか?」


 反対に厭悪の目でねめつけながら趙が尋ねる。


「うん、そうだよ。あれ? でも何で君は僕のことを知っているのかな?」

「各地に残されていた記録からお前の存在を知ることが出来た」


 そう言ったあと、趙が続けた。


「今度はこっちから質問していいか?」

「どうぞ」

「なんでこんなことをした! なぜゾンビを作り出し、世界を滅ぼした!」

「素敵で素直で素晴らしい美少女ハーレムを作りたかったからさ!」


 男は一切の曇りのない笑顔で、なんの逡巡もなく答えた。


「…………はい?」


 趙の思考が一瞬、途絶した。


「生きている女は色々と厄介だと思わないかい? わがままも言えば言うことを聞かない時もある。それにどんな美女でもいつかは老いて醜くなる。その点、死人は最高さ。逆らうこともなく、変わることもなく、排泄することもなく、孕むこともなく、そして死ぬこともない。ちょっと防腐に気を使わなければいけないけど、それもまた一興」


 笑顔を絶やさず、男が長広舌をふるった。


「そんな……そんなことだけのために…………人類を滅ぼしたのか?」

「そうだよ♪」


 男がニカッと白い歯を見せて笑い、親指を立てて答えた。


「どうやら君は霊幻道士のようだね。傍らにいる可愛い彼女は君の使役するキョンシーだろう? ならば今、僕が言った気持ちも理解してもらえると思うんだ。最高だろう? 自分の言うことを何でも聞く素直な少女は」

「気持ちは……わからないでもない……」


 趙が自虐的な笑みを浮かべる。


「ああ、何でも言うことを聞く死体は便利だったぜ。可愛くもあった。だけどよ……」


 趙が魏に一度視線をやる。


「俺は行動的で面倒臭い女の方が好きみてぇだ。我ながら悪趣味とは思うけどよ」


 そして男に視線を戻した。


「てめぇとは趣味が合わねぇ。友達にはなれそうにねぇ……」


 趙の拳が、硬く、強く、握り締められた。


「ってことで……死ねッ!」


 趙が真っ直ぐに男へ向かった。

 それと同時に男の使役する死体少女たちが肉の盾として立ち塞がる。

 が、そんな健気な彼女たちを一瞬で趙が粉砕した。


「……ッ!?」


 瞬間、趙が激痛に目を剥いた。

 『なにか』が趙の身体に食い込んでいた。

 粉砕された少女たちの内部から飛びだした『なにか』。


 それは、加工された骨だった。


 虎ばさみのような肋骨、針と化した指骨と趾骨、太刀となった大腿骨。

 魏の左足をいびつな形になった少女たちが貫き、地面に食い込んで趙を縫い付ける。


「う……ぐぅ!?」

「君が僕を知っていたように、粉砕されたゾンビから僕も君の存在を知っていたんだ。対策は練ってあるよ。彼女たちに壊せばその瞬間、発動する骨トラップを仕込んだのさ」

「死体をそこまで辱めて利用するか……!」


 韓が男を睨む。

 が、その視線を男は涼しそうに受け止めた。


「君たちも似たようなことしてたから文句ないだろ?

 そして、罠で動きを止めたらその後は…」


 男が別の死体少女へ視線をやった。

 死体少女が服を脱ぐ。その全身には以前のキョンシーメイド以上の爆薬がくくりつけられ、場所によっては肉をえぐるように埋め込んであった。


「……ッ!」


 次の瞬間、閃光。

 そして爆発。


 趙の身体がゴミのように吹き飛ばされ、魏の目の前に転がった。


「あ、あ……あ…………」


 目の前で倒れた趙を魏がさする。

 しかし、趙は何の反応も示さない。

 すでにその身体は爆発により生命活動を停止していた。


「あー……おー、お…………きて……」


 さらに魏が趙を揺さぶる。


「お、おき…て…おきて……よ…………」


 どこか昔に見た光景。

 それが彼女の眠っていた何かを目覚めさせる。


「あっあっあっあっ! ああああああああああああああああああああああああああ!」


 今、ハッキリと目が覚めた。

 魏が理性を取り戻した瞳に涙を浮かべて趙をさする。


「起きなさいよ、趙! 何いつまで寝てるのよ! 早く、早く起きてよ!」

「ほう、ショックで生前の記憶を取り戻したか。

 僕のネクロマンシーじゃ出来ない芸当だよ。すごいね中国四千年♪」


 泣き喚く魏を面白そうに男が見る。

 そんな男を魏が睨みつけた。


「殺してやる…ッ! 絶対に殺してやる…ッ!!」

「カモンベイビー! 僕の胸に飛び込んで来たまえ!」


 ネクロマンサーが宝物を見つけた少年のような輝く瞳で魏の殺意を受け止める。


「しゃあああああああああああああ……ッ!!!」


 ドス黒い厭忌の気を纏い、魏が猛り、駆ける。

 すぐに数体の少女ゾンビが立ちはだかりる。

 そんな彼女たちを魏が素手で破壊した。


 それと同時に、壊れた彼女たちから飛び出した骨が魏を地面に縫い付けた。


「あぐ…ッ!?」


 動けない。身じろぎ一つ出来ない。

 魏の肉は大地へ完全に磔にされている。


「魏! ……うぐぅ!」


 とっさに助けに出ようとした韓は別の少女ゾンビに抑えられた。


「殺してやる! 殺してやる! お前なんて絶対に殺してやるんだからぁ!」

「自我を持った死体か。興味深くはあるが、僕の好みじゃないんだよねぇ」


 殺意溢れる魏とは反対に呑気に男が呟いた。

 そして、ゆっくり魏の額に貼ってる符へ手を伸ばす。


「これを外せば元の死体に戻るかな? 大丈夫。ゾンビになれば何も考えず、感じなくなるさ。ある意味、楽なもんだよ。死後はちゃんと可愛がったあげるさ」

「…………ッ!」


 符を剥がそうとする男の言葉に魏の表情が青ざめる。

 そしてふるふると首を振った。


「い、いや……いや…………」


 男の手がゆっくりと近付いてくる。

 恐怖と絶望の中、魏が思わず叫んだ。


「助けて、趙…ッ!」




「遵命:(了解しました)」




「……え?」 


 ネクロマンサーの視界が黒く染まる。

 何者かが男の顔が鷲掴みにしていた。

 全身が煤けた少年が、右腕一本で軽々と男の巨躯を持ち上げている。

 

「がッ?!」


 そして、人外の怪力で男を地面に押し倒した。


「な、にぃ……!?」

 

 ネクロマンサーが突如自分を押し倒した者の正体を見て愕然とする。

 それは、まぎれもなく趙だった。

 死んだはずの趙が、何も言わず左手でバンダナを外す。

 その下に答えがあった。


(あ、あれは私の書いたキョンシーの符…ッ!!)


 趙の額に貼られている符を見て魏が思った。


「お、お前は一体……!?」


 顔面を掴まれた男が驚愕の表情をする。


「この符見てわかんない? キョンシーだよキョンシー。中国製の動く死体だぜ」


 そう言ったあと、ぽかんとしている魏に視線をやった。


「何ぼけーっとしてんだよ、魏。この符を書いた俺の主人だろ? とっとと命じろ」


 その言葉に魏がはっとなる。

 そして真っ直ぐに趙を見つめて言った。


「〝霊幻道士〟魏静蕾として汝に命ずる…………」

「ま、待て……! そ、そうだ話し合い。話し合いをしようじゃないか? ねね?」


 笑顔を貼りつけたまま命乞いするネクロマンサー。

 しかし、この男に対する憐憫も同情も、魏には毛頭なかった。

 静かに、だがハッキリとした声で趙へ命じる。


「この世界に存在する〝全ての生者を破壊せよ〟」

「遵命」


 ニヤっと趙が笑う。そして…


「ちょ、待て!! 待て待て待て!! や、やめろ…やめろおおおおッ!! ……あ」


 ぶちゅり、とネクロマンサーの頭部をトマトのように握りつぶした。


「あーあ、最後の人類滅ぼしちまった。ま、いっか」


 右手にへばりついた血と脳漿をふるい落としながら趙が呑気な声で言った。



       ◇◆◇◆



「大丈夫か、魏?」

「ど、どうなってるのよ、趙?」

「キョンシーになったんだよ」

「知ってるわよ。でもちょい前の私と違って理性バリバリじゃない」

「才能の違いって奴じゃね?」

「何それ!? そんなことより、早くこのトラップ外してよ」

「えーめんどい、自分でやれよ」

「何それ!? あなた私の下僕でしょ!」

「お互いがお互いの主人だから、ふたりとも自立しちゃってんだよ」

「いいから外してよ!!」

「はいはい、わかったって。外してやるよ。あらよっと」

「わっ、外し方雑! 私の身体、傷付いちゃうじゃない!」

「あーもー面倒くさいな。やっぱ『あうあうあー』で素直な時の方が良かったぜ」

「な、なによぅ…」

「さーて、人類は俺らも含めて滅亡しちゃったなぁ。これからどーする?」

「犬の惑星を作ろう」

「韓?」

「韓くん?」

「お前の人化の術を発展させて、犬を第二の人類にしようじゃないか」

「韓くん、意外と野心家ねー」

「いいねー、時間なら永遠にあるし。じゃあ韓は王様な。俺、神やるから崇めろ」

「じゃあ私、女神やるー。美の女神」

「美の女神って…自分のツラ考えて言えよ」

「な、なんですって!」

「他にはどうする、神のお二方?」

「自由の女神を半分海に沈めましょう。犬の惑星についた宇宙飛行士を『ここは地球だったのかー?』ってビックリさせるの」

「あー、いいなそれ。やろうぜ、やろうぜ」

「楽しそうだな、お前ら」


「なんか死んでからの方が幸せかも」

「俺もだ」

これにて終了です。

元々、読切漫画の原作として脚本形式で書いていたものなので、小説として見ると文章が変な場所が多々;


それではお付き合い、ありがとうございました。

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