表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都のお一人様カフェ SOLITAIRE ソリテール  作者: yuruhuwa回路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/59

ゼファーの帰還

 旅から帰ったゼファーが、二ヶ月ぶりにSOLITAIREに来たのは木曜の朝だった。


 日に焼けていた。旅の疲れが顔に出ていたが、目が穏やかだった。


「お久しぶりです」とカインが言った。

「久しぶりです。コーヒーを。砂糖は二つ」

「かしこまりました」


 ゼファーはいつもの奥の席に座った。旅のカバンをそのまま椅子の隣に置いた。


 コーヒーが来た。一口飲んで、目を細めた。


「……変わらない味だ」

「ありがとうございます」

「旅の間、いろんな国でコーヒーを飲みました。でもここの味が基準になっていて、どれも違うと思ってしまった」

「それは困りましたか」

「いいえ。違いを楽しんでいました。ただ、帰ってきたいとも思っていた」

「旅はどうでしたか」


 ゼファーは少し考えてから答えた。


「良かったです。フィールドワークの成果もありましたが、それ以上に、ファリドという人間をよく知ることができました」

「どんな方だとわかりましたか」

「好奇心の塊で、頭の回転が速く、感情が豊かで、人懐こくて、少々落ち着きがない」

「褒めていますか」

「半分は褒めています。でも……旅の途中で、ある村の子供が病気になって、ファリドが三日間ほとんど眠らずに看病したことがあった。その姿を見て、この青年は良い研究者になるだけでなく、良い人間だと思いました」

「それは嬉しい発見でしたね」

「ええ。弟子を取ったことを、初めて良かったと思いました」


 カインはコーヒーのおかわりを持ってきた。


「以前は、そう思っていなかったのですか」

「優秀だとは思っていましたが、煩わしいとも思っていた。でも今は、煩わしさも含めて、悪くないと思っています」

「変わりましたね」

「旅がそうさせたのか、ファリドがそうさせたのか、それともこの店に通い続けたことがそうさせたのか、わかりません。おそらく全部です」


 ゼファーは原稿用紙を取り出した。


「第二巻を書き始めます。今日から」

「また木曜に来てくださるのですね」

「もちろんです。ここが私の書く場所ですから」


 カインは少し間を置いた。


「それは光栄です」


 ゼファーはペンを持った。


 書き始める前に、一度だけ顔を上げた。


「カインさん、旅に出ている間、ここが続いているか、少し心配していました」

「なぜですか」

「あなたに何かあったら、と思って」


 カインはコーヒーカップを磨きながら答えた。


「何もありませんでした」

「そうですか。良かった」


 ゼファーはペンを走らせ始めた。


 木曜の朝のSOLITAIREに、ペンの音が戻ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ