二度目の冬の前に
十一月の初め、カインは棚の豆を見直した。
冬になると客の好む味が変わる。夏の酸味より、冬は深みと甘みを求める人が増える。それを経験で知っていた。
エミリが来て、棚を一緒に眺めた。
「冬用に変えるんですか」
「少し構成を変えます。深煎りを増やして、浅煎りを減らす」
「季節によって変えるんですね」
「お客様の状態が変わるので」
エミリはノートに書き取った。勉強熱心なのは最初から変わらない。
「カインさん、一年目の冬と、今年の冬で、何か違いはありますか」
カインは少し考えた。
「お客様の数が増えました。それと、エミリさんがいます」
「それだけですか」
「あとは……私自身が、少し変わったかもしれません」
「どう変わったんですか」
「以前は、お客様が帰るときの顔を見ることが一番の楽しみでした。今はそれに加えて、エミリさんがコーヒーを淹れるのを見ることも楽しみになりました」
エミリは少し赤くなった。
「それ、褒めてます?」
「はい」
「カインさんに褒められると、なんか照れますね。いつも短いから」
「長く褒めることが苦手です」
「知ってます」
エミリはノートを閉じた。
「カインさんが少し変わったって、私には変わってないように見えますけど」
「そうですか」
「うん。最初から同じ感じ。落ち着いてて、静かで、ちょうどいい距離感で」
「それは変わっていない部分です。変わった部分は、もう少し内側にあります」
「内側?」
「毎晩、今日来た客のことを一人ずつ思い出します。最初の頃と今とで、思い出し方が変わった気がします」
「どう変わりました?」
カインはドリッパーを手に取りながら答えた。
「最初は、変わった顔を確認するように思い出していました。今は……もう少し、楽しみながら思い出しています」
エミリはそれを聞いて、少しの間黙った。
「……それ、すごく良いことだと思います」
「そうですか」
「うん。カインさんも、ここが本当に居場所になってきたってことだから」
カインはドリッパーをセットした。
「そうかもしれません」
開店のランプに火が入った。
二度目の冬が、静かに始まろうとしていた。




