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王都のお一人様カフェ SOLITAIRE ソリテール  作者: yuruhuwa回路


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49/50

それぞれの場所で

 秋の終わり、SOLITAIREは二年目に入ろうとしていた。


 カインはいつもより少し早く豆を挽いた。


 エミリが来るのは今日は午後からだ。午前中は一人で店をやる。


 ランプに火を入れた。


 窓際の花は、シルヴィアが先週持ってきた白い小花だった。少し枯れ始めていたが、まだ香りがした。


 開店して一時間、アレンが来た。


「いつものを」

「かしこまりました」


 アレンはコーヒーを飲みながら本を読んだ。相談役の仕事が増えて忙しくなったが、それでも週に三、四回は来ていた。


「最近、若い冒険者が一人、泣きながら来た」とアレンが言った。

「どんな方でしたか」

「俺が最初にここへ来た頃に似てた。疲れてた。でも諦めてはいなかった」

「何を伝えましたか」

「もう少しいてみろ、と言った」


 カインは少し間を置いた。


「それは良いことを言いましたね」

「どこかで聞いたことのある言葉だったから」

「そうでしたか」


 アレンはコーヒーを飲んだ。


 昼前にミレイアが来た。今日は試合前日だった。紅茶を頼んで、目を閉じた。何も話さなかった。それで十分だった。


 午後、エミリが来て、コーヒーを三杯淹れた。一杯目はまだ調整中だったが、二杯目と三杯目は良かった。


「今日の三杯目、良かったです」とカインが言った。

「本当ですか」とエミリが目を輝かせた。

「はい。粉の量と湯温のバランスが合っていました」

「やった」


 夕方、リュートが来た。リュートを持っていた。


「宮廷の歌、完成しました」

「そうですか」

「自分の連作も三曲書けた。両方できた」

「それは良かったです」

「やってみればできるものだな」

「はい」

「今日は連作の中の一曲を弾いていいですか」

「どうぞ」


 リュートの旋律が静かに流れた。


 冬を前にした秋の話だった。終わりではなく、次への準備のような歌だった。


 夜、シルヴィアが来た。


「花屋、初めて黒字になった」

「おめでとうございます」

「ドグマのやつが宣伝してくれたらしい。東区の人間に。あいつ、口下手だけど、なんか信頼されてる」

「良いパートナーですね」

「パートナーって言うな。ただの荷物運びだ」


 カインは何も言わなかった。


 シルヴィアはハーブティーを飲んで、帰った。


 閉店後、カインは一人で椅子を上げながら、今日来た人たちのことを思った。


 アレンは若い冒険者に自分の言葉を渡していた。


 ミレイアは試合前に静かな時間を持っていた。


 エミリは一杯ずつ上手くなっていた。


 リュートは二つのことを同時にやり遂げた。


 シルヴィアは花屋で黒字を出した。


 全員、少しずつ、それぞれの場所で、それぞれのことをしていた。


 この店は何もしていない。


 でも、この店がここにあることで、何かが違う。


 カインはランプを消しながら、それで十分だと思った。


 扉に鍵をかけた。


 路地に出ると、秋の終わりの冷たい風が吹いた。


 見上げると、星が出ていた。


 明日も、豆を挽く。


 コーヒーを淹れる。


 ベルが鳴る。


 誰かが来る。


 SOLITAIREは今夜も、路地の角に静かにあった。

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