それぞれの場所で
秋の終わり、SOLITAIREは二年目に入ろうとしていた。
カインはいつもより少し早く豆を挽いた。
エミリが来るのは今日は午後からだ。午前中は一人で店をやる。
ランプに火を入れた。
窓際の花は、シルヴィアが先週持ってきた白い小花だった。少し枯れ始めていたが、まだ香りがした。
開店して一時間、アレンが来た。
「いつものを」
「かしこまりました」
アレンはコーヒーを飲みながら本を読んだ。相談役の仕事が増えて忙しくなったが、それでも週に三、四回は来ていた。
「最近、若い冒険者が一人、泣きながら来た」とアレンが言った。
「どんな方でしたか」
「俺が最初にここへ来た頃に似てた。疲れてた。でも諦めてはいなかった」
「何を伝えましたか」
「もう少しいてみろ、と言った」
カインは少し間を置いた。
「それは良いことを言いましたね」
「どこかで聞いたことのある言葉だったから」
「そうでしたか」
アレンはコーヒーを飲んだ。
昼前にミレイアが来た。今日は試合前日だった。紅茶を頼んで、目を閉じた。何も話さなかった。それで十分だった。
午後、エミリが来て、コーヒーを三杯淹れた。一杯目はまだ調整中だったが、二杯目と三杯目は良かった。
「今日の三杯目、良かったです」とカインが言った。
「本当ですか」とエミリが目を輝かせた。
「はい。粉の量と湯温のバランスが合っていました」
「やった」
夕方、リュートが来た。リュートを持っていた。
「宮廷の歌、完成しました」
「そうですか」
「自分の連作も三曲書けた。両方できた」
「それは良かったです」
「やってみればできるものだな」
「はい」
「今日は連作の中の一曲を弾いていいですか」
「どうぞ」
リュートの旋律が静かに流れた。
冬を前にした秋の話だった。終わりではなく、次への準備のような歌だった。
夜、シルヴィアが来た。
「花屋、初めて黒字になった」
「おめでとうございます」
「ドグマのやつが宣伝してくれたらしい。東区の人間に。あいつ、口下手だけど、なんか信頼されてる」
「良いパートナーですね」
「パートナーって言うな。ただの荷物運びだ」
カインは何も言わなかった。
シルヴィアはハーブティーを飲んで、帰った。
閉店後、カインは一人で椅子を上げながら、今日来た人たちのことを思った。
アレンは若い冒険者に自分の言葉を渡していた。
ミレイアは試合前に静かな時間を持っていた。
エミリは一杯ずつ上手くなっていた。
リュートは二つのことを同時にやり遂げた。
シルヴィアは花屋で黒字を出した。
全員、少しずつ、それぞれの場所で、それぞれのことをしていた。
この店は何もしていない。
でも、この店がここにあることで、何かが違う。
カインはランプを消しながら、それで十分だと思った。
扉に鍵をかけた。
路地に出ると、秋の終わりの冷たい風が吹いた。
見上げると、星が出ていた。
明日も、豆を挽く。
コーヒーを淹れる。
ベルが鳴る。
誰かが来る。
SOLITAIREは今夜も、路地の角に静かにあった。




