エミリの疑問
エミリが来て二ヶ月が経った。
コーヒーはかなり上達していた。常連客数人が「最近美味しくなった」と言うようになった。エミリ本人はまだ気づいていなかった。
その日、開店前にエミリは聞いた。
「カインさん、ずっと聞けなかったことがあって」
「どうぞ」
「カインさんって、なんでこの仕事を始めたんですか」
カインは豆を量りながら答えた。
「居場所が必要だと思ったからです」
「居場所を、作りたかった?」
「自分が一番ほしかったものを作ろうと思いました」
「カインさん自身が、居場所がなかったんですか」
「昔は、そうでした」
エミリは少し間を置いた。
「どんな仕事をしていたんですか、前は」
カインは挽いた粉をドリッパーに入れながら言った。
「今は話せないことが多いですが、居場所を作ることとは遠い仕事でした」
「遠い仕事……」
「エミリさんはなぜこの仕事を、と聞いたとき、お母さんの話をしてくれましたね」
「はい」
「私の理由も、似たようなものです。自分が経験したことから、必要だと思ったことを作った」
エミリはカウンターを拭きながら考えた。
「カインさんの居場所が、今はここですか」
「そうです」
「それは、お客さんが来てくれるから?」
「お客様がいてくださるから、ここが居場所になります。私一人だったら、ただの部屋です」
エミリはしばらく考えた。
「じゃあ、お客さんとカインさんが、互いに居場所を作ってるんですね」
カインはお湯を注ぎながら、少し間を置いた。
「そうですね。そう思います」
「私も、それがやりたい」
「どういうことですか」
「ここで働いていて、お客さんが帰るときの顔を見るのが好きになった、って前言いましたよね」
「はい」
「あれ、ずっと続けたいと思ってる。カインさんが言ったように、互いに居場所を作り合う仕事を」
コーヒーが落ちていった。
カインはカップに受けて、エミリに差し出した。
「飲んでみてください。今日の一杯目」
エミリは受け取って、一口飲んだ。
「……美味しい」
「今日は良い粉の状態でした。この感覚を覚えておいてください」
「はい」
エミリはコーヒーを飲みながら、窓の外の秋の路地を見た。
石畳に光が落ちていた。
「カインさん」
「はい」
「私、いつかこういう店を持つかもしれないけど、しばらくはここにいていいですか」
「もちろんです」
「良かった」
エミリは笑った。
開店のランプに火が入った。
今日もSOLITAIREが始まった。




