静かな雨の日に
秋の長雨の日、SOLITAIREは一日中しとしとと雨音が聞こえる店になった。
客は少なかった。午前中に二人、午後に三人。
その中の一人が、ドルトン老司祭だった。
「また来ました。秋は足が重くて」
「ありがとうございます。いつものハーブティーを」
「ええ」
老司祭は窓際に座って、雨を見た。
「こういう日は、神殿も静かです。信者が少ない。雨の日に来る信者は、本当に来たい人だけ」
「そうですね」
「この店も似たものかもしれない。雨の日に来る客は、来る理由がある」
カインはハーブティーを持ってきた。
「今日は何かご用がありましたか」
「用というほどでもないが……先月から、神殿で若い司祭の指導をするようになりました」
「そうですか」
「七十二歳になって、初めて人を教える立場に」
「遅くはないですか」
老人は少し笑った。
「遅いと思います。でも、やってみると、面白い。若い者の疑問は、私が七十年間疑問に思わなかったことばかりで」
「それは発見がありますね」
「昨日、二十歳の若者に聞かれました。神様は本当にいるのか、と」
「どう答えましたか」
「わからない、と言いました」
カインは少し間を置いた。
「七十年間、神に仕えてきた方が」
「はい。わからないと言いました。でも、信じることをやめる理由もない、とも言いました」
「その若い方は、どう受け取りましたか」
「しばらく考えて、それでいい気がします、と言っていました」
カインはカウンターに戻りながら言った。
「良い答えだと思います。わからないと言える人が、信じることを選ぶのは、一番強い信仰かもしれません」
老人はそれを聞いて、しばらく黙った。
「……あなたは、信仰を持っていますか」
「特定のものはありません」
「でも、何かを信じていますか」
カインは少し考えた。
「人が変われること、だと思います。それをここで何度も見たので」
老人は目を細めた。
「それは、立派な信仰だと思います」
雨が続いていた。
窓ガラスを雨粒が伝っていた。
二人は、しばらく、雨音だけを聞いていた。




