エルナの新しい仕事
エルナが孤児院の話をしたのは、秋晴れの午後だった。
「子供たちに読み書きを教え始めました」
「そうですか」
「週に二回、孤児院へ行って。最初は子供たちが怖がっていましたが、今は慣れてきて」
「楽しいですか」
エルナは少し考えた。
「楽しい、かどうかはわかりません。でも、必要とされている感じがします。それが……新鮮で」
「王族として必要とされることとは違いますか」
「全然違います。王族として必要とされるのは、役割として必要とされること。でも孤児院では、私という
個人が来ることを、子供たちが待っていてくれる」
「それが嬉しいのですね」
「嬉しい。それだけではないですが、嬉しいです」
カインは紅茶を持ってきた。
「王女様が個人として動かれることを、宮廷は許可しているのですか」
「ちゃんと話しました。縁談の件と同じように。今回は父も賛成してくれました。王族が民に直接関わることは、悪いことではないと」
「それは良かったですね」
「カイン、あなたのおかげだと思っています」
「私は何も」
「いいえ。縁談のとき、ここで一人になれたから、ちゃんと考えられた。考えられたから、ちゃんと話せた。それが最初の変化だったと思います」
カインは静かに言った。
「エルナ様が自分で動かれたことです」
「でも、動く前に、ここが必要でした」
エルナは紅茶を飲んだ。
「子供の中に、一人、エリという女の子がいて。七歳なんですが、全然話さなくて。目が合っても顔を逸らすし、他の子と遊ばないし」
「はい」
「でも先週、私が読んでいた絵本を、ちょっとだけ一緒に見てくれました。声はかけてこなかったけど、隣に来て、同じページを見ていた」
「それは大きな変化ですね」
「そうですね。あの子が隣に来てくれたとき、なんか……胸がいっぱいになりました。うまく言えないですが」
「言葉にしなくていいことだと思います」
エルナはカップを置いた。
「カイン、私が最初にここへ来たとき、何かを置きに来る人、何かを拾いに来る人、ただいたい人がいると言いましたね」
「はい」
「私は最初、ただいたい人だったと思います。でも今は、何かを拾いに来ている気がします」
「何を拾いに」
「次にエリに会ったときに持っていくもの、かな。ここで一人になって、考えると、なんかそういうものが見つかる気がするので」
カインは静かに答えた。
「それが、この店の一番の使い方かもしれません」
エルナは少し笑った。
「なんか、今日は饒舌ですね」
「そうでしたか」
「たまにそういう日がある。カインにも」
「気づいていましたか」
「一年以上通っていますから」
扉を開けて出ていくエルナの背中は、最初に来たときよりも、ずっと軽やかだった。




