レオンの選択
レオンが二度目にSOLITAIREに来たのは、最初の訪問から三ヶ月後だった。
「抜けた」
席に着くなり言った。
「ハウンドを」
カインはコーヒーを淹れながら、黙って聞いた。
「予定より少し早くなったが、あの後から考えてたら、今しかないと思って」
「そうですか」
「これから何をするかは、まだ決まっていない。ただ、抜けること自体は後悔していない」
コーヒーが来た。レオンは一口飲んだ。
「……やっぱりうまい」
「ありがとうございます」
「お前のことを、ずっと変わった奴だと思っていた」
「そうですか」
「ハウンドにいた頃から。他の連中は仕事と割り切っていたが、お前はどこか、それだけじゃなかった。だから早く抜けるだろうと思っていた」
「それが五年前のことですね」
「そうだ。俺はお前より十年長くいた」
カインはカウンターに手をついた。
「レオンさんは、なぜ今まで続けていたのですか」
「必要だったから。生活の問題もあったし、抜けた後に何があるかわからなかった。お前みたいに、次が見えていなかった」
「私も、見えていたわけではありません」
「でもお前はこれを作った」
レオンは店内を見回した。六つの席、仕切り、ランプ、窓際の花。
「これを一人で作ったのか」
「はい。開店前に半年ほど準備しました」
「どうしてカフェだったんだ」
カインは少し考えた。
「居場所が必要だと思ったからです。自分が一番ほしかったものを作ろうと思いました」
「自分が一番ほしかったもの」
「はい」
レオンはコーヒーを飲んだ。
「俺も、そういう風に考えればいいのか」
「人それぞれだと思いますが、一つの方法かもしれません」
「俺が一番ほしいもの……」
レオンはしばらく黙って考えた。
カインは何も言わなかった。
十分ほどして、レオンが言った。
「……わからない。でも、それを考えるところから始めればいいか」
「そう思います」
「答えが出たら、また来て話す」
「お待ちしています」
レオンは代金を置いて立ち上がった。
「一個だけ聞いていいか」
「はい」
「お前は今、幸せか」
カインは少し間を置いた。
「……はい。そう思います」
「そうか。そういう顔に見えなかったが」
「顔に出ていないのが課題です」
レオンは苦笑した。
「相変わらずだな」
扉が閉まった。
カインは一人になってから、レオンの質問を反芻した。
幸せか、と聞かれた。
はい、と答えた。
それは本当だと思った。
コーヒーを一杯だけ、自分のために淹れた。
窓の外に秋の光が差していた。




